『設備技術者の修行時代①』-2
『 設備技術者の修行時代①』-2
技術課に配属:
当時の高砂熱学東京本店の技術部門は5つの課に別れておりそれぞれの各課で設計と工事を担当していた。技術系新人はそれぞれの課に配属された。筆者の課では配属時には課長は外遊中で、その間I係長が現場から本社に来て睨みを利かせていた。配属された最初の日は諸先輩に頼まれた事をやったのかどうか、夕方5時になって向かいの席のO君が「山本さんどうしようか?帰っていいのかな?」というので同期の他の2人も仕事が終わっているのを確認して、4人でI係長さんの前に並び、仕事は終わりました、帰って宜しいでしょうかと断ってから帰宅した。その後は諸先輩が残業していても、仕事が終われば状況により定刻に帰ったが、よそでは「新入社員は仕事がなくても、先輩が帰るまで残っているように」と先輩にいわれた課もあったそうで、同期の者達からおおらかな課風(?)を羨ましがられた。これは勿論最初の頃だけで、若手社員をいつまでも遊ばせてくれるはずはなく、その後は同期の諸君と同じような忙しさとなった。
先輩よりも給料が良かった事:
4月に貰った給料はそこそこのものであったが、これはまだ昇給額が決まっていなかった2年(!)先輩の皆さんたちより良かった。折からの高度成長期で、新入社員の初任給が毎年大幅に上がり始めていたので、瞬間風速ながら2年!先輩を上回ってしまったのである。ボーナスも良かった。この年の12月に貰ったボーナスも結構な額であった。年末に同級生で集まっていくら貰ったか話した際、設計事務所の友人に次いで良かった。しかしこれを正直に言うとゼネコンの連中にまずいと判断し、彼らを下回るおおまかな数字で口を濁した。ちなみにそれ以後の本給は高度成長期にふさわしい上がり方であったが、今の人たちにはかわいそうで、具体的な上がり方は言うわけには行かない。
メイズイとグレートヨルカ:
課に配属になって最初の仕事は竣功間近の旧ヒルトンホテルの風量測定であった。午前中新人講習、午後は現場というわけである。僕とO君、I君とT君がペアとなった。この現場は所長以下5人のメンバーであった。ここで懐かしく思い出すのはメイズイとグレートヨルカ、初めて知った競馬馬の名前である。丁度ダービーの時期で、当時の本命対抗馬について現場の皆さんが熱い会話を交わしていた。T社の皆さんがこんなに競馬好きであるとは知らなかった。自分ではやらないが、周りで話題になっていたので、高砂在籍中の名馬の名前は結構よく覚えている。
配属された課での仕事:
ホテルの竣工後は本社に戻り、H係長下で某ゼネコン関係の設計業務を手伝った。同期の諸君も現場や本社等各所に配属された。同じ階の隣の課では課長の他には社員一人と女子社員だけしかいなかった。同期の諸君はじめ課員は皆クライアントの用意した事務所で仕事をしていたのである。こちらの課はあちこちの現場が上がって社員が戻ってきており大変賑やかであった。
筆者が出入りしたゼネコンの設備課には(早稲田の)先輩のAさんやKさんが居られた。後輩が来たということでいろいろかわいがっていただいた。あるときの打ち合わせで建築図が変更になり、他の仕事はないので帰社してすぐに修正していたところ、ちょうど直し終わった頃電話があって「前のままでいい」といわれた。建築設計には変更がつき物ということを初めて経験したのである。H係長の指導の下ここで色々な設計をやったが、当時は手帳に仕事の予定等を書き込む癖がついていなかったため、具体的なプロジェクト名は思い出せない。どこかの社員寮の暖房設備と某ビルの設計(基本計画の段階)を担当した他、先輩社員の設計の手伝いもしたような記憶がある。この時代のエピソードは他の項でもお話しする。
(自分史を書くため昔の資料を調べたら、後述する現場に常駐するまでに、本社および渋谷の事務所で沢山の設備計画・設計や現場管理を行っている。勿論当初の設計はお手伝いであるが・・・・。)
技術の話が大好きな先輩たち:
上記のような教育を受けた他に先輩たちの話を聞くだけでもずいぶん勉強になった。とにかく筆者の課の諸先輩方は技術の話が大好きで、昼休みやちょっとした休憩時間の話題は自分の失敗談を初めとする技術関係の話が殆どであった。どんな話だったのかは今では覚えて無いが、蓄熱槽内の温度変化についてI係長とY主任が大激論を行い、他の社員がいろいろ意見を述べていたような記憶はある。勿論我々新入社員は何の事かよく分からなかったのであるが・・・。又後の別な課長の時代にも夕方になると課長を始めとして皆が集まってきて課長や諸先輩の苦労話に耳を傾けるといった事がよくあった。現場の事務所時代は上司から茶飲み話に北海道で蒸気トラップを破損させた話や、寒冷地におけるOA加熱用蒸気コイルの凍結防止策を教わった。これは第29話『風にふかれりゃ温度が下がる』の話で紹介した。また某百貨店の現場では給気とレタンのダクトをつなぎ間違え、レタンガラリから風が出て来た話など面白い話をいろいろ聞かせていただいた。
これら諸先輩の技術話はいろいろな所で役に立っている。筆者が本誌でこの連載を書いているのも、その趣旨を受け継いでいるわけである。
((有)環境設備コンサルタント 代表取締役 〔ヤマモト ヒロシ〕)