『設備技術者の修行時代③』ー1

2021年12月06日

〔2〕STビル現場勤務時代(その1)

≪分室事務所の発足≫

どこのゼネコンやサブコンでもお得意先を持っている。T工業㈱と某グループも緊密な関係にあり、それまでにも百貨店、ホテル、事務所ビル、アパート等々の工事実績があった。この他にも改修工事や営繕工事が継続しているので、現場の出先事務所があってSさんが常駐しておられた。同期のT君もここにいて小さいながら某銀行の支店の現場をまとめていた。その他女子事務員T嬢と工員(配管)のIさんがいた。

 筆者が風量測定を行った某ホテルの竣工後、クライアントではこのホテルの計画や建設に関わった建設チームを中心に、設計監理部門を発足させ、某駅前に大型ビルを建設することになった。以前からその他にもいろいろな計画があり本社で対応していたが、大型ビルの受注に併せてSさん1人であった事務所を、H係長を所長とする分室として充実させる事になった。僕も前号で紹介した現場からこちらの事務所に移り大型ビルの現場に常駐することになった。

発足当時の事務所はクライアントの近くのオフィスビル6階であった。当初の布陣はH係長・S氏・Mさん・筆者・T君・T嬢の6人であった。先頃竣工した超高層ビルも本社ビルとしての計画があり、40年前の当初の計画にはMさんが参画していた。

≪STビル概要≫

建築・空調設備概要

建築面積:2,800㎡ 述べ面積:30,600㎡

構 造:鉄骨鉄筋コンクリート造、B2F~9F、軒高:31m

用 途:銀行、事務所、物販店舗、飲食店

空調方式:各階ユニット方式(事務所階は方位別レヒーター・コントロール)

熱 源:ターボ冷凍機600RT、400RT、78RT各1台(全密閉型)

:ボイラ 炉筒煙管式 蒸発量3t/Hr、1.5t/Hr 各1基

空調系統:各階2系統(事務所階はレヒーター5ゾーン)

ダクト方式:高速ダクト、梁貫通

中央監視:ボイラ以外の全館機器の遠隔操作及び監視

その他の特徴

:空調機は塩ビ鉄板にエアレックスを接着したパネルによる工場組立て式(当時の空調機は現場組立てで、保温・塗装も現場工事であった)

:空調送風機の防振にコイルスプリングを使用。

:冷却塔の充填材にはじめて塩ビ波板を使用。(信和のトックリ型ができる前である)

施主はT社で、設計は前年発足したばかりのT社設計監理部であった。以上の概要はH係長が竣工時にまとめたSTビル空気調和並びに換気設備工事概要書によるが、当時としては斬新的な技術が盛り込まれていた。

設計のチェック:

このビルを担当する事になって、教育もかねてこの建物の空調設備設計のすべてを再チェックする事となった。H係長としても通常「めのこ」で決めている機器容量や配管・ダクト静圧の本当の計算上の値を知りたかった事もあろう。H係長の指導で熱計算から初めて、機器を選定し、設計図を基にダクト・配管の抵抗計算を全て手計算で行った。丁度井上先生の「ダクト計算便覧」が出たばかりであったのでこれを用いた。これは大変勉強になった。現在はパソコンがやってくれるので簡単である。

冷凍機の容量については、当初設計ではターボ冷凍機の容量が筆者の計算でと合わなかった。設計事務所の計算書をチェックしたら、外気負荷計算のところで空気線図のエンタルピの値の読み違いが判明した。設備概要にあるように結局80RTの小型のターボ冷凍機を追加したが、この組み合わせは使いにくかったそうである。

新入社員が設計説明:

現場が始まって間もないころH係長に連れられて、T社にレヒーター方式の説明に行った。経験を積ませようという係長の配慮からか、僕が説明をした。相手方は課長、部長が顔をそろえているが、空調に関しては素人同然。空気線図を使って各ゾーンごとの空調機の温度変化を説明したが、僕の説明でも十分であった。H係長のフォローがあったのは勿論である。

これ以外にも現場が稼動するまでの事務所での別の物件で、クライアントにいろいろ技術的な説明することがあったが、僕の説明では納得してくれない施主も、同じ話を二年先輩のMさんがすると素直に聞いてくれる。たった2年の差ではあるが、Mさんには説得の技術だけでなく施主を納得させる風貌があった。やや童顔の筆者としては、風貌は及ばずとも説得の仕方については学ばせていただいた。

定例会議の出席:

建築・設備は分離発注であったので、施主の出席する定例会議に出席させてもらったのもその後に大変役立った。どのような建物を作ろうか試行錯誤の段階でもあり、後述のように事務所/店舗のテナント区分も流動的であったので、このような会議に若いときから出席させてもらった事は、ビル計画に対するデベロッパーの考え方を知る上でも大変役に立った。

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