『設備技術者の修行時代⑦』-1

2022年01月03日

〔3〕T社の一癖も二癖もある面々の語録

お世話になり、可愛がって頂いた方はたくさん居られるが、ヤハリ新入社員時代に近くにいた個性豊かな方々の話が印象に残っている。STビルが竣工したので、今回は諸先輩の語録を挙げる。

  • 三年間は実績をつくれ

新人教育の内の技術教育はT社でも始めてであったが、現在各社でやっているような体系に近いものであった。学校の授業の延長のような物であったが、それぞれ得意の分野を任された、各部門から選ばれた講師の経験豊富な話は面白かった。それよりも印象強かったのは某講師であった。色々な話のあと、「君たちは3年間はサボらずに、実績を作りなさい」であった。「サボるのはそれからにしなさい」ということで、仕事柄、配属先の状況や個性的(?)な上司によってはルーズな癖が身につく恐れもあり、会社や社会なんてこんな物だということになると本人の為にもならないのでこのような話になったのであろう。

同じ課のオジサン社員は、「昔は駅から会社の中が見えたので、遅刻したときは上司がいると回れ右して、喫茶店に行ってよそにいったことにして電話を入れて、10時頃顔を出した」そうで、こんな事を新入社員がやったら一生うかばれない。

これを教訓に近くにある某ゼネコンに打合せに行った際も、終わると喫茶店にも寄らずにすぐ帰った。ある日会社に着く前に先方の方から電話があったが、丁度「今帰って着たところです」ということで実績を蓄積できた(?)。

この講師の方は昼間は何処に行っているのか分からないが、夜になって残業していると何処からともなく現れて、設計や計画をまとめているのが常であった。「山本君、夜は電話がかかってこないから仕事がはかどって良いね。」「そうですね」とは答えたものの、昼間にゼネコンから電話があって、「○○君は何処行った?」と課長や女子社員たちが探し回っていたのを知っている僕としては折角作った実績もこれではという複雑な気持ちであった。

  • 熱計算の重み

本社勤務時代に某物件の熱計算を一生懸命やっていると、某先輩から「山本君、空調設備の設計のうち、熱負荷計算の重みはどの程度だと思う?」と訊かれた。「・・・半分ぐらいですか?」「機械の容量を決める目安にするだけだから4分の1(3分の1?)以下だろうね」といわれた。その後に続く「当社の設計の仕事は、建物用途にあった良いシステムを設計してあげる事だよ」は建築学科出身の設備技術者にとっては、大変有益な一言であった。このことは上司始め色々な方からも言われ、設備設計よりも設備計画・システム計画が大切であるということは、T社技術者の共通認識であったと思う。

その後建築設計事務所に移ってからはこの言葉を忘れずに設備計画・設計を行ったのは言うまでもない。

熱負荷計算を行って機器類を選定するとそれだけで設計が出来たつもりになってしまうのには気をつけなければいけない。以前紹介した、「計算尺での最後の桁の数字には意味ないよ」との先輩の言葉も、この趣旨にそったものである。

現在はパソコンが小数点以下の数字も計算してくれるが、筆者の頃よりも意味ないことをしているわけである。機械がやってくれるので手間かからず計算違いもないが、負荷計算書に小数点以下の数字があると、今でも落ち着かない。

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