『 設備技術者の修行時代②』-1

2021年12月02日

『 設備技術者の修行時代②』-1

〔Ⅰ〕本社勤務時代(続き)

若い奴には教育が大切:

配属されたH係長の下では、設計の手伝いをしながら色々な指導を受けた。まだ設計施工・責任設計の風潮が色濃い時代でもあり、クライアントの設備部門もそれほど充実していなかったので、建築計画の最初から参画させてもらえたのは大変勉強になった。

おかげで設計事務所に移ってからも、設備計画へのアクセスの仕方に戸惑う事が無かったのは大変良かった。

とは言え、現在のように設備計画の比重が大きいわけでもなく、又システムや機器類が多種多様な時代でもなかったので、空調設備設計はセントラル方式が主体であった。

クライアントから受けた建築図で内容を説明すると、平面形から空調のゾーニングを決めてもらい、換気回数から空調機の容量をきめスペースを決めてゆく手順は現在とそれほど変わりは無い。高砂熱学工業㈱独自の熱負荷設計基準が定められる以前であったので、熱計算については「空気調和ハンドブック」を使った。熱計算の結果がでると係長からは計算尺で㎡当りのKcal又はUSRTを確認し、机の中から自分専用の設計資料を出して比較し、「丁度良いね」とか「もっと多く(又は少なく)」という風に熱源の容量を決めてもらった。どのくらいの容量のものを何台という指示もあった。

会社の先輩技術者は自分の経験に基づいた個人データを作っていて、H係長からは熱源機の大体の目安を教えてもらった他「君も色々経験を積んで、将来はこういう個人的な資料をまとめなさい」といわれた。

H係長のグループの諸先輩も、直接の部下でなくても必要とあれば遠慮なく仕込んでやろうとの姿勢が窺えた。某社社員寮の暖房・換気設備の設計を受け、熱計算を行い設計図を作成しているときも、横から先輩のアドヴァイスがあった。記憶にあるのは隙間風とベースボード・ヒーターについてである。隙間風の負荷は本に書いてある数値では足りない、倍は見ておかなければいけない(当時のスティール・サッシュは隙間が多かった)とか、温水ベースボードヒーターの選定では配管が太く水の流れが層流になるので(能力に)余裕を持たせるようにとかであった。

この設計をあげて見積書を出した時も、会社に戻ると定年間近のHoさんが近寄ってこられて内容を尋ね、「山本さん。年寄りが余計な事を言うようですが、こういう場合はこの次からはこのくらいでお出しなさい。」とアドヴァイスされた。Hoさんの目からは、上司のH係長はまじめな方なので営業的配慮(?)が若干不足気味なのを心配されたようであった。

パソコンはおろか計算機も無い時代なので、設計の計算は計算尺で行った。熱計算では計算尺で読める範囲で頑張って一桁の数字でKcalの値を出したら、「この一桁の数字にどんな意味があるの?」「・・・・?」。ということで最下位一桁又は二桁の数字は丸める事としたが、これは計算機の無い時代に計算間違いを少なくする効果も大きかった。

図面作成の時も15Aのパイプは使ってはいけない等は誰かに指摘を受けた気がする。

また同じ課のI係長は結構若手に刺激を与える方で、直属の上司でなかったがそばにいるだけでいろいろな影響を受けた。これらの方々については、まとめて後述するつもりであるが、本社にいるときは上司からは勿論であるが、周りの諸先輩からいろいろ教育されたほうが多かったような記憶がある。

エアハンドリング・ユニットは自分で設計:

新入社員講習の最終技術考査の問題は室内負荷を与えられて送風量・冷水量を決め機器類を選定するものであったが、選定する機器の中に「空調機の大きさ」もあった。エアハンドリング・ユニットは現在のようにカタログから選択するのでなく、フィルター・コイル・送風機(T式送風機のカタログもあった)を選定し、ケーシング寸法を決めて個別に組み立てる方式であった。「ヒーター・クーラー」については8型プレートフィンコイルの、列数・管長・管数・パス数・台数の設計が要求されたのだから、完全に個別設計である。

この後課内で空調機を設計する際もメンテスペース・空気の流れ等について周りからノウハウを伝授された。

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