アリャーの話➀(床タイルは滑りやすい)
「『マサカ』の話」連載の初期には、友人達にコピーを送っていた。グループ会社の建築家の後輩からも面白い記事を送ってきたので、建築のトラブル話で少し長いが紹介する。
◆041212
今月も『マサカ』の話ありがとうございました。ありうる話ばかりですね。
他にもタイルについて思い出したことがありましたので山本さんをまねして『アリャー』の話として書いてみました。ご一読ください。
『アリャー』の話:タイルの使い方 K.S.
筆者が建売住宅の商品化を担当していたときの話である。T不動産は首都圏を中心に各地で大規模な宅地造成を行いそこへ戸建住宅を建設し分譲販売を行なっていた。筆者はその中のひとつ八王子の団地を担当することになった。新しい気分で新規供給の企画から始めたのだが前任者からの引継ぎで既供給物件のアフターサービスも引き受けた。当時はまさに右肩上がりの時代で商品内容は年二回の販売期毎にグレードアップしていた。その中のひとつとしてカーポートの床はそれまでのモルタル仕上げからタイル貼りに変えられていた。東京近辺の方はご存知と思うが、郊外の八王子は仙台より寒い所だと言われている。そしてひと冬に何回か雪も降る。雪の後カーポートのタイルで滑って転んだというクレームが殺到した。雪で滑るのは当たり前なのだから歩き方に気をつけてくれなければ、と前任者の仕事であったからしぶしぶ調査に出掛けた。
現地を見たとたんに『アリャー』である。滑るは滑るはいくら気をつけて歩いてもツルツル。タイルの表面には釉薬が掛けられ誠にきれいな仕上げになっているのだがこれではどうしようもない。これを採用した前任者の不注意と言ってしまえばそれまでだが、メーカーのカタログでも屋外床で使用可となっている。メーカーも認識が甘かったのである。
ともかくこれを何とかしなければならない。そこでメーカーを呼んでクレーム。「屋外床に使用可というから使ったのだ。そちらの責任である。何とかして欲しい。」と。担当者はウーンとうなって考え込んでしまった。相手は渋ったがこちらも妥協案を出して貼替えの材料はメーカー持ち、施工は当社持ちということで決着し数十戸の改修を行なった。そしてカタログには使用範囲を適切に記載するよう求めた。さすがは日本のトップメーカー、翌月出された新年度用カタログは全面的に改められていた。そればかりではなくその後他社のカタログも同様に使用範囲が明確に記載されるようになった。
現在はタイルを選定するのにこのような間違いは起きないはずである。屋外のタイル床で滑るという事故は激減したはずである。その点ではいささかの社会的な貢献ができたと思っている。