『設備技術者の修業時代①』-1 

2021年11月30日

『設備技術者の修行時代①』-1 

石の上にも3年といわれているが、この連載も3年をすぎ40回を越えた。先ごろ若い頃の貴重なトラブル経験をお話したように、この辺で筆者の修行時代の話をするのも何かと参考になるかとも思われるので、今回から数回にわたり社会に出てからのお話をする。 社会人人生のうちで何年が修行時代というきまりはないが、筆者の場合は大学卒業後8年5ヶ月サブコンに在籍し、その後建築設計事務所に移ったので、サブコン時代が修行時代といえるであろう。

何故設備屋になったのか:

 建築学科に入学したからには、建築設計屋になりたかったのは当然である。しかし親しい仲間の連中は絵がうまく、デザイン能力は筆者より優れていると感じさせられる事が多かった。(今ではそれだけが設計者にとって必要条件とは思わないが、少なくとも学生時代の筆者にはそのように感じられた)そのせいばかりではないだろうが、クラス担任でもあった井上宇市先生の影響もあっていつの間にか設備に関心を持つようになった。

もっとも、ゼミは建築設備であったが、卒論には構造を選んだ。井上先生の「若いうちにはなんでも色々経験しておきなさい」とのお話に従ったといえば聞こえは良いが、何を一生の仕事にしようか迷いがあったのは確かである。構造設計は自分に向いた分野とは思えず、結局はやはり設備の方が面白そうだということで就職先は設備関係にすることとなった。これからは設備の時代であるという先生のアドヴァイスも大きかった。寒がりの母親に役立つ事もあろうかという思いもあった。

高砂熱学社の名前を初めて知ったのは大学4年生になって就職先を決める時であった。設計事務所、ゼネコン、サブコン(当時はこの言葉はそれほど一般的ではなかったが)等の設備系の会社への就職希望者が先生の所に集められ、各社からの求人希望が紹介された時の事である。高度成長時代の始まりの頃で、技術系求人数が学生数を上回っていたので殆んどの学生が希望通りの所に決まった。

高砂熱学を選んだのには特別な理由はない。「技術力を付けるには高砂社が一番良い」との井上先生の推薦の言葉に素直に従ったまでの事である。父親に相談すると先生がおっしゃったんなら良いんじゃないか、お前は理工系に進んだのだから技術力が身につく会社に行くのが一番良いと思うと賛成してくれた。今にして思えば株も公開していないような(当時)聞いた事もない会社に行くと聞いて、全く動じなかった父親もえらかったと思う。

入社試験はなく、同級生のM君と一緒に面接をしただけであった。

〔Ⅰ〕本社勤務時代

昭和38年の入社式では社長の挨拶があった。空調産業はまだ青年期の産業であるから、君達の前途は明るいといったような話をされたのを覚えている。又社員研修のはじめの頃、誰の話だったか忘れたが「君達はどこの大学を出たなんて事はこの場で忘れなさい。頭の中身は誰でも皆同じようなもので大して変わりはない。サラリーマンは『1に体力』、『2に体力』である。」と健康というより体力第一を言われ、すごい所に来たなと思ったが、それについては後日身をもって体験したことである。

新人教育:

高砂熱学における新入社員教育は丁度筆者が入社した年から始まった。今でこそどこの会社でもやっている事であるが、当時はOJTという言葉すら一般的ではなかった時代であって社員教育も試行錯誤的なものであった。併し、この年からN課長が責任者になって、設計・施工・熱源機・空調機類・配管系・ダクト系・動力自動制御等にカリキュラムを分け、係長クラスの方が夫々得意の分野を受け持ち教育することとなった。I係長による空気線図やH係長の冷媒配管の話があったのを覚えている。その他の方々の話も中々面白く、特に協力会社(動力関係)の方による動力回路と自動制御の基礎的な話はその後大いに役立った。

勿論現場見学もあって、丸の内界隈のビルの機械室の現場等を見せてもらった。当時ボイラは油焚に変わりつつあったが、見学先のボイラは石炭炊きであり、新築ビルでストーカを見たのはここがはじめてであった。(その後も見たことはない)当時は石炭と比べて供給が安定していないとの理由で、M社の建物では油は使わないのだと説明された。隔世の感がする。

4月は一般的な研修と空調衛生工学会の新人講習会があり、4月の終わりか5月の始め頃各課に配属になった。配属後は午前中は技術講習、午後は実務というスケジュールとなったので、入社してすぐに現場に配属された諸先輩からは羨ましがられた。この講習は記憶では9月末まで続き、最後に技術考査を行って終わりとなった。

 

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