建築設備トラブル㉓ 現象要因別トラブル⑲
【作動不良】建築設備システムには、ある条件下で作動したり、状況を感知して制御を行ったり、警報を発信したりする、装置・製品・部品がたくさんある。これらは工業製品であるから品質管理は行き届いているはずであるが、まれに目的外の作動を行って、ビル管理の方々を惑わせることがよくある。これらについては、不具合が直ればよいのでどこにどんなものが付いていて、どのようなトラブルが発生しているかの情報は、施工会社でも把握していないことが多い。具体的なものを挙げてみる。
給排水設備(空調関係含む):ボールタップ、水位検知器、レベルスイッチ、電極棒、減圧弁、安全弁、自動エア抜き弁、バルブ類、圧力計、スプリンクラーヘッド、泡消火設備感知ヘッド。
空調・換気設備:各機器類付属の制御機器、自動制御機器、フロースイッチ、ダンパー類、温度計
電気設備:各種制御計測装置、火災報知設備感知器類。細かく言えば、制御盤内のリレーや接点類も以下の不具合に関連する。
- 誤作動
ある現象を感知して、必要な動作を行ったり、警報を発信したりするのが本来の機能であるが、感知の対象外の物により誤作動することがよくある。これが最も多いのが、煙感知器、熱感知器である。火災発生時の煙や熱を感知するのが本来の目的であるが、煙草の煙や、ホテル浴室からの湯気で警報が出るのが困る。結露・漏水などによる誤作動については紹介した。
熱感知器もカセット型空調機の吹き出し口の近くにあると誤報を発する。捕捉漏れの厨房排気の熱を感知することもある。本誌(確認)2013年4月号の特設「ビル給排水設備のクレーム」で紹介された、ガラスで囲まれた空間での日射で熱せられたスプリンクラーの発泡も誤作動による『マサカ』の話である。
サーモスタットの位置も要注意である。外壁側の壁に設置された場合は、壁面の熱の影響で冷気が配管内を流れて、誤作動の原因となる。また、外壁側柱面取付事例で、日射の当たる側面に取付けてあるのに気が付いて直させたこともある。冷蔵・冷凍設備の冷たい壁面に設置されたサーモスタットも同様である。
ボイラフレームアイに窓からの日射が当たってボイラが運転間違いした『マサカ』の事例は類書にある。
流体関係の安全装置や、感知のための部品類は流体内のごみや異物によって誤作動を起こす。排水ポンプの運転停止用の電極棒やレベルスイッチでは、汚水槽をはじめとして誤作動が多い。給水装置用や蒸気用の安全弁からの、水や蒸気の噴出が止まらない例はよくある。自動エア抜き弁も同様である。減圧弁も誤作動があるが、安全弁類のように作動結果が直接表に見えないのが困る。
これらの定期的な作動確認は勿論メンテナンスの対象である。
機器類の故障も、機器付属の装置・部品の誤作動によるものもあるが、煩雑なので省略する。自動制御設備の不具合も、制御機器類の誤作動による。ダンパー類、バルブ類の誤作動もある。
防火ダンパーも誤作動で閉まることがある。状況にもよるが暫くの間全く気がつかなかったこともある。CO2濃度があがったために、空調機給気側防火ダンパーの作動が分かった事例もある。空調・換気トラブルの場合にはこれにも気をつける必要がある。
それ以外にも誤作動は、機器類の運転停止や故障、警報の頻発など機能障害となる。
- 不作動(作動不良)
作動すべき時に作動しないのであるから、誤作動とは若干ニュアンスが異なる。故障に分類される機能障害はこれによるといってもよいであろう。
機器類の運転停止や機能障害程度ですむ場合は良いが、特に安全のために取り付けられた装置が作動しなかった場合は、設備や機器の破損などの大きな事故になる恐れがある。作動不良の項であげた計器・器具・部材類が不作動の場合はどのような障害が起こるかについては、ビル管理者が常に把握しておかなければならないことである。
安全性が最も要求される防災関係の設備では、当然の事ながら定期的な点検を義務づけられている。
防災・設備関係の不作動で最もあってはいけないのは防火ダンパーの不作動であろう。
コラム
筆者の設計した高級アパートで最上階二軒のうちの一軒が火事で焼失したことがある。セントラル方式の給排気ダクトがこの階で展開しており、住戸界壁の防火区画を貫通しているものも数か所あった。火事の後、あちこちの消防署から消防車での見学が多かった。管理の方の話では、防火ダンパーが有効に作動して隣の住戸に延焼しなかったという好事例の見学であったそうだ。このダンパーは勿論作動したから良かったが、もし不作動だったらと冷汗ものであった。筆者の初めての現場では、竣工1か月前に放火による火事があった。この際にもFDはキチンと作動していた。