建築設備トラブル概論(13)建築設備トラブルとハインリッヒの法則②
4.軽微な事故原因が把握できずに大事故につながった
P社のガス湯沸かし器による人身事故も、ハインリッヒの法則が当てはまると考えられる。当初の湯沸し器不着火トラブルがヒヤリハットなのか軽微な事故なのかの定義づけは不明であるが、ともかく大事故への前哨であった事は間違いないので、この法則の実証事例と言える。
残念なのは、多数の事故事例に対してその原因が、メーカー一社では把握できなかったことである。原因はサッシの気密度向上にあり、換気扇・レンジフードの運転で湯沸し器の排気ファンが能力不足となったことである。その場合もワンルームマンションのサッシの気密度や給気口の大きさと個数、換気扇・レンジフードの能力の違いによって、トラブル発生の状況に違いがあり、安全装置の不正改造という最悪の状態で人身事故になったものである。
これについては、拙著「マンション設備『マサカ』の話」の第1章、「高気密化のトラブル相談」で詳述しているのでご覧ください。
5.原因は分かっても対策が遅れたため、人身事故になった。
ヒヤリハットと軽微の災害の原因は把握できたが、抜本的な解決策が出来ずに人身事故になったのが、回転ドアの事故である。建築設備トラブルにハインリッヒの法則は成り立たないと述べたが、手直しのコストがそれほど高額でないことも重大災害を防止している側面もある。排水槽の事故はメンテナンス頻度を上げただけでヒヤリハットが止まっている。渋谷のスポーツ施設でのガス爆発は、ガス感知器があれば防げたし、この費用は全体工事費の中ではわずかである。
ガス湯沸かし器の不完全燃焼事故は、器具使用時に窓を少し開けてあれれば発生しない。(最終的な解決には、換気設備の改善など若干の費用が発生し、負担者がどこになるかの難しい話があるが・・・)
回転ドアは取り替えるとしても、金額が大きい。ということで姑息な対策を行っているうちに大事故となり、ハインリッヒの法則を証明する事となってしまったのは残念であった。