建築設備トラブル概論⑩ バスタブ曲線と設備トラブル①
10.バスタブ曲線と設備トラブル
工場用の設備と一般建物用設備について述べたように、工場用設備においてトラブルが少ないポイントは、権限のある設備技術者の存在であった。工場は生産用の施設であるから、工場における設備のあり方について、ノウハウがあるのが当然である。また、社内に技術者がいるということは、技術が蓄積され伝承されているということにもなり、当然トラブルも減少する。一般建築の場合は設計者にトラブル情報が上がりにくいのであるから、技術の蓄積・伝承以前といえる。『マサカ』どころか『マタカ』が減らない原因である。
ビル管理業界においては、技術の伝承ももちろんであるが、管理している個々の建物の設備についての特性の把握とその伝承が重要であろう。
いずれの業界でも経費節減のために、アウトソーシングが一般的であるが、この場合はトラブル情報の伝達や、技術の伝承が不十分となりやすくトラブルの減少は難しいこととなる。
10.1バスタブ曲線(故障率曲線)について
工業製品で発生するトラブルの内容は、その発生時期によって異なる。建築設備も工業製品であるから、トラブルや故障に関しては、一般的な工業製品と同じような傾向を示すと考えられる。それを時系列で並べると、初期(トラブル多発)⇒ 安定期(稀に偶発故障)⇒ 末期(劣化・経年変化による故障)となる。この概要について述べる。
信頼性工学において、工業製品のトラブルや故障の発生率に関してはバスタブ曲線(故障率曲線・寿命曲線)という言葉がよく使われる。
工業製品やシステムにおいて、製造され、使用され、その後性能・機能が低下して廃棄・取替えに至るまでの故障発生率の経時変化は、縦軸に故障率を横軸に使用開始後の時間を取ると、図のように変化する。(添付できずすみません)この故障率の形は、バスタブの形を示すことからバスタブ曲線とも呼ばれている。
故障の時期は、初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期に分かれる。
使用開始後間もなくは初期故障期といわれ、設計・製作などの不具合による故障が多い。故障の少ない安定期(偶発故障期)を経て、機器類の寿命に近くなると、摩耗(劣化)故障期に入り経年や長期の使用に伴う劣化の進展により故障率が大きくなる。
といっても、総ての工業製品がこれに当てはまるわけではなく、家電製品や自動車など一般的な商品のばあいは、初期故障期間は製品試作から商品として発売されるまでとみなしてよい。筆者の経験でも、購入した工業製品で初期故障に相当するようなトラブルに遭遇した経験はあまりない。
一般的な商品としての工業製品の場合は、購入後の使用期間は上図の偶発故障期間から始まるので、故障/トラブルは比較的少ない。建築設備で使われるポンプやファン、熱源機器などの汎用品や、部品・部材に関しては、初期故障はあまり聞かない。逆に償却期限を大きく過ぎてもトラブルなく使われている機器類はたくさんある。
しかし建築設備は工業生産品を使用するが、どちらかというと手工業・組立工業的要素が大きい。また、建物と同様建築設備も一品生産品であるため、設備全般のトラブルの発生状況に関しては、一般的には上図のような傾向のうち、初期故障が竣工引き渡し後に発生するといってよいであろう。特に新しいシステムや新規開発の機器類に関しては同様の傾向があるといえる。
空調設備に関しては、冷房期・暖房期があるので一年経過しないと様子が分らないことが多い。電気設備や給排水設備では設計ミスなどのよほどの原因がない限り初期故障は少ないが、空調設備とあわせて、建築設備全般の初期故障期間は1年とみてよいであろう。マンションでは瑕疵担保期間は2年である。別な言い方をすれば、初期故障が無くなるまでは2年かかるということにもなる。