建築設備トラブル概論7.設備トラブルとクレーム②
7.3 受忍限度
設備トラブルには許容範囲が大きいと述べたが、その裏返しの言葉が受忍限度である。
設備の機能障害はあってはならないことであるから、本来機能が充足されないという意味では受忍限度は存在しない。機能障害ではないが、漏水や排水不良、臭気など明らかに利用者に迷惑をかけるようなトラブルに関しても、あってはならないことであるから受忍限度はない。
受忍限度に最も関係があるのが、トラブルの受容に関しての個人差である。代表的なものが設備の3大トラブルのうちの、騒音トラブルと暑い寒いのトラブルである。温度は数字的な目安があり、ドラフトがあっても対策は可能である。騒音トラブルは、暗騒音との関係もあるが音の感じ方に個人差があることと、対策を施しても、その効果を認識してもらえないことが問題である。
7.4 トラブル・クレーム対応部門について
トラブル・クレームに対しては、どの部門が行うのが望ましいか?
筆者のサブコン時代は、トラブル対応は設計・施工した部門、担当者が行うのが決まりであった。本来はこのような形が望ましいが、昨今ではどこの会社もアフターサービス部門を設けて、CS対応を行っている。CS対応は会社の評判にも関わる。したがってこの部門には、おおむね管理職クラスの経験豊富なベテランが配属されることが多い。
経験不足な若手技術者に任せたら、小さな不具合が大きなクレームになりかねない事情は理解できるが、ベテランの技術力だけがアップし、若手技術者が失敗やトラブルを通して成長する機会が失われるのは望ましくない。大きなトラブルでは、設計者・施工者が呼び出される場合もあろうが、アフターサービス部門の立場からは、通常は内部で解決することが望ましい。
結果として部門内で解決されることとなり、トラブルの発生から解決まで、設計者・施工者にどの程度情報伝達されているのであろうか? 気になるところである。
自分が関与した設備に不具合が発生したということは、設計・施工いずれの立場であっても技術者にとっては技術の教材といえる。経験工学的な要素のつよい建築設備の分野ではこれらの情報の取得は必須であるとさえいえる。もちろんトラブル・クレーム情報は、関係部署に伝達されてはいるであろうが、直接不具合状況に直面し、事業者側から叱られて脂汗を流し、上司に報告して対応策を考え、クレーム当事者への説明を行うといったことに比べれば、自分が関係しているとはいえ他人が解決してくれては教育的効果は小さい。
下請け業者やメーカーに任せた場合も同様である。
そのせいかどうか分からないが、筆者の経験では、対応が良い若手技術者は中堅クラスや地方の施工会社に良く見られた。専門のサービス部門がなければ、トラブル・クレームは自分で対応しなければならない。おのずから成長する所以である。
大きなトラブルの場合は、当然責任者の対応が必要である。事業者側としては小物の担当者を叱っても仕方がないから、それなりの責任者の出馬が必要となる。嬉しい話ではないから、この部門の責任者にはなりたがらない者が多いと思われるが、事故対応、顧客対応、再発防止の観点からは重要な部署であり、適任者の選任が難しい。
また、事故報告書や始末書についても、責任の所在と宛先の関係を間違えては、せっかくのお詫びがかえってクレームの種になりかねない。事故・不具合は製造物責任といえるのであるから、原因者から最終的に迷惑を蒙った相手までの間に、関係各社が介在する。関係者は、トラブルに関する自社の立場を認識し遺漏のない対応が必要である。
マンションなどのトラブルで、設備機器類や設備システムが原因の場合、施工会社やデベロッパーの対応としては、下請けサブコンの報告書だけでは不十分であり、迷惑を蒙ったユーザー側に対して誠実さに欠けるものと受け取られる。
現役時代は全体を取りまとめる立場の建築設計事務所の人間として、自分の責任ではないトラブルについても事故報告書や意見書などを書いた。