建築設備トラブル概論8.エンジニアリングトラブルと建築計画関連設備トラブル③

2023年07月17日

8.4 責任施工について

「責任施工」という言葉がある。現在はマンションの大規模改修工事などでの発注方式の一形態であるが、筆者の設備工事会社時代は、性能検証も含めて受注工事は「責任施工」であるのが当然であった。

「責任施工」であるためには、受注したエンジニアリングの機能に関しては全責任がある。したがって設計施工が前提となる。筆者がこの業界に入ったころは、建築設備の設計に関し設計会社やゼネコンの実力がそれほど高く(失礼!)なかったので、計画を含め設備設計は設備工事会社が行うことが多く、必然的に「責任施工」という考え方が定着していたのである。したがってこの時代には、トラブル対応は施工した設備会社が行うのが当然であった。以前に、サブコン時代の上司が「君たちは技術のことでは、施主・設計者・ゼネコンと喧嘩しても構わないからね」と言ってくれたことを紹介したが、この責任を自覚していたからといえる。

実際に設計依頼された際に、設備工事会社の技術者の立場であっても、建築学科の出身者として、いろいろ主張させてもらった覚えがある。

時代が下がって、現在は基本的には設計・施工は分離されている。しかし「責任施工」という考え方は残っており、設備トラブル=設備工事会社の担当(責任?)と考え、建築意匠設計者がトラブル原因者になりうることを認識していないことが、『マサカ』『マタカ』トラブル発生の原因の一つである。

迷惑をこうむった事業者・発注者側も責任分界点の存在に気付かないものが多く、設備トラブルといえばサブコンに振られることもしばしばである。ただし、大手ゼネコンの場合は、設備部門が充実していることもあり設計・施工いずれの場合も受注・請負条件に応じた対応を行っている。しかし、トラブル情報が意匠設計者にどの程度伝達されているかは不明である。建築計画関連設備トラブル情報は、建築計画・設計のプロセスにおいて、設備設計者から伝達されることが最も効果的である。

8.5 建築計画関連設備トラブルとエンジニアリングトラブルの諸事例

・騒音トラブルについて言えば、ホテルの地下3階機械室で、設計に入っていた冷温水ポンプの防振を減額対象にして取り外したため、3階(!)の結婚式場の床で微振動が感じられたというトラブルがあった。防振装置を取付けたら振動が消えたというのはエンジニアリングトラブルといえる。

しかし、ポンプ室の真上にマンションの寝室を配置し、ポンプや配管類の防振を行ってもなかなか音が消えないでクレームになった、というのは建築計画関連トラブルである。このケースでは暗騒音との関連が問題を複雑にしている。一般的には施工側の対応で解決しているが、本来は計画時点でポンプ室の位置をエレベータホールや、集会室の下に配置するなどの配慮をすべきことである。

サッシの高気密化が暗騒音の低下につながり、その結果給水ポンプをリニューアルして騒音トラブルになったなどは、判定しにくいところではあるが、エンジニアリングトラブルに入れるべきであろう。

・排気ガラリ騒音も、建築計画トラブルとエンジニアリングトラブルがある。近隣マンション居室に面して排気ガラリが設置された場合は、騒音トラブルが発生する。このような配置を行ったのは、建築計画であるが、消音装置を取り付けるのはエンジニアリングの範囲といえる。ただし、シャフトが狭くてガラリの後ろに消音装置がつけられない場合は建築計画トラブルといえる。建築デザイン的にガラリの面積を小さくされたり、特殊形状が原因となって騒音が大きくなった場合は建築計画トラブルである。

騒音でなく、臭気がトラブルとなる場合は分け方が微妙である。この場合は、ガラリや排気レジスターの配置計画を建築設計者、設備技術者のどちらが行うかにより分けることができる。ガラリが大きい場合は、ファンルームやダクトシャフトなどのスペースが必要となるので、どこに配置するかは建築計画の範疇である。マンションや戸建て住宅の厨房排気は小さな排気口(レジスター)によることが多いが、隣地や隣戸に影響ないように配置することが原則であり、建築設計者が把握しておくべきことである。

・輻射熱はエンジニアリング(空調設備)では対応できない。南面に大きなガラス開口のあるホテルのロビーで、景観を妨げるのでブラインドやカーテンはつけたくない、空調で対応してくれと言われて断ったことがある。

・排水設備のトラブルも建築計画が原因の場合がよくある。建築基準法には、「排水量に見合った適切な管径、勾配とすること」とあるが、規定の内容はエンジニアリングの範囲である。しかし床ころがしの排水配管スペースが小さかったり、階高が低く天井内の配管勾配スペースを充分取れなかったりして、排水不良となる事例はよく見られる。この場合は、現象としてはエンジニアリングトラブルであるが、法規定を満足させるに十分な配管スペースを取らなかったという建築計画トラブルである。このケースでは設備技術者が建築基準法の遵守を求めているのに、一級建築士が法不適合を強制するという信じられないような状況がよくみられる。

・雨水出水地域での防水対策は、建築計画とエンジニアリングとの両方で対応しておく必要がある。外部の水が浸水しないように段差を設けたり、防水板対応を行うのは建築計画の範囲であり、1階系統の排水や1階のバルコニー、中庭雨排水を別系統としてピット内に貯留してポンプアップ排水することはエンジニアリング計画の範囲である。建築で浸水対応してあるのに1階排水を直接放流すれば、集中豪雨時の雨水は逆流して排水口から浸水する。建築基準法第十九条には、「建築物の敷地は、これに接する道の境より高くなければならず、建築物の地盤面は、これに接する周囲の土地より高くなければならない。ただし、敷地内の排水に支障がない場合又は建築物の用途により防湿の必要がない場合においては、この限りでない。」と規定されているが、ただし書き以下は設備の責任である。

半地下住宅・半地下マンションでの排水逆流や、雨水排出抑制地域での雨水貯留槽への逆流で電気室の水没などは、エンジニアリングトラブルともいえるが、建築設計者にも認識していただきたい重要なトラブルである。

「建築と設備の接点」という題名の本があるように、建築計画・設計の際に設備に配慮すべき事項はたくさんある。これらに関する配慮不足によるトラブルが建築関連設備トラブルであるといえる。

建築意匠設計者に対するトラブル情報伝達が重要なゆえんである。

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