建築設備トラブル概論 3    工場用設備と建築用設備①

2023年06月04日

3.工場用設備と建築用設備

前項では工業生産品と建築設備ということで考察を行ったが、生産の形態から使われ方までまったく違うものを比較して、トラブルが多い少ないを指摘するのは若干筋違いなことといえる。したがって今月は、同じ一品生産品であるが、生産の場である工場などに設けられる空調・換気・給排水・電気設備と、生活の場である建物に設けられる設備について違いを比較してみる。

 筆者が定年後某財団での非常勤勤務の際、工場空調経験豊富な隣席の設備工事会社OB氏に『どうしてビル空調では工場空調と比べトラブルが多いんだろう』と尋ねたところ、実に明快な答えがあった。以下は、氏の答えに詳説を加えたものである。

3.1 工場用設備と建築用設備

 工場も建築の種別のひとつであるから、その用途は別であるが、他の建物と同様に一品生産品であることに変わりはない。工場用であれ、建築用であれ、空調・換気・給排水・電気設備それぞれに要求される機能に変りはない。ただし、工業生産品の生産現場である工場に関しては、一般の建築用設備と比べて要求事項がシビアーになるのは当然であり、これがトラブル発生が少なくなる大きな要因である。

3.2 工場用設備の特徴

工業生産品の特徴は、少品種-大量生産-工場生産である。ここで求められる設備の役割は、製品製作の主役である製造機械類のサポート的なものから、乾燥設備、製品の洗浄設備などのように製品の品質を左右するような設備も多い。一般空調でも温湿度条件は厳しく、製品によっては錆が発生することがあるので、一般ビルのように省エネのための室温28℃設定ができない工場もある。

エンジニアリング的には、熱力学、流体力学の応用レベルが高いといえよう。

また、電気がなければ製作機械は動かないのであるから、電気設備の役割も勿論重要である。建物の設備と同様に工場の設備が生産現場で重要な役割を担っていることはいうまでもない。

その他、一般建築と違ってデザイン的要素は少ないので、建築設計者が意匠設計にそれほどこだわらないのが助かる。

工場用設備の特徴を挙げると、

  • 発注者、製造者側の設計条件や仕様が明確である。⇒ 生産のための設備であるから目的がはっきりしているのは当然である。
  • 工場諸施設内の設備設計条件は、比較的細かく決められている。負荷の変動要因も少ない。
  • 発注者側に専門の技術者がいる。⇒ トラブル防止の要因として、発注者側に建築設備について理解のある技術者がいることは大変重要である。

この技術者は、設備設計の段階から竣工後の設備の使われ方まで把握していることが一般的であり、経験豊富な設備工事会社技術者でも子供扱いされるそうである。

  • 下請けも含めて工場施設の施工工種が限られており、品質管理が比較的容易である。
  • 設計どおりに作られる ⇒ 工場建設の過程で、全く設計変更がないということはないではあろうが、ほぼ設計どおりに作られることが多い。事業者側や建築設計者の恣意による変更はない。
  • 竣工後の検査が厳しい ⇒ 購入使用する側の目的が明確であるから、設備の機能が目的を満足するかどうか検査・調整が厳しいのは当然である。
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