建築設備トラブル概論 3 工場用設備と建築用設備②
3.3 建築用設備の特徴
一品生産で、言い換えればすべての製品が特注品ということでは、工場用設備と変わりがないが、上記の特徴の逆が建築用設備と考えれば、問題点のありかがはっきりする。このあたりのことについては、前項でいろいろ述べたので省略するが、大きな違いは、設計条件のあいまいさと、施工中の設計変更がおおいこと、事業者側に設備専門技術者がいる場合が少ないことであろう。
3.4 発注者側に専門技術者がいるメリット
上記設備工事会社OB氏の答えは一言!「工場設備(設計)の場合は先方に技術屋がいますからね」であった。確かに発注者側に経験豊富な設備技術者がいれば、設計者は楽であり、安心できる。設計条件や仕様が決まっているとしても、一品生産である建物(工場)の設計にあたっては、細かいところの煮ツメが必要であるし、そのたびに発注者側の考え方を確認できるのはありがたい。建築設計者や製造・制作部門と、設備側とで意見の違いなどがあっても、当方の見解を理解してくれる者がいることになり、意見がまとまりやすい。
工場は生産現場であり、設備といえども製品原価に絡んでくる。設備専門の技術者が必要とされるのは当然である。
事業者側に設備専門の技術者がいないと何が困るか。設計条件や仕様は設計者に一任されているから、一見設計の仕事は楽なように見える。しかし設計の工程ではさまざまなことが起こる。最終決定に至るまでに先方の了解・承認を必要とする事項はたくさんある。予算との関係もある。簡単に理解していただけるものもあれば、素人(失礼!)に理解していただくのが難しく、説得に手間のかかる場合もある。
建築設計者はこちらの身内であるはずであるが、専門分野になると中立である。それだけではなく時としては当方の主張と対立する場合さえある。
特に見えがかりや、デザインに関することでは計画の当初から問題にならないように配慮を進めてきていても細かいところでは、考えの違いがあるのはやむを得ない。設備工事会社時代の最初の現場所長からの教えは『君たちは技術の事では、ゼネコンや設計事務所と喧嘩しても構わないからね』であるが、そうたびたび喧嘩するわけにはゆかない。先方に専門技術者がいれば、理解は早いし設計業務はスムーズも進む。トラブル・クレームももちろん少なくなる。
建築の種別でいえば、設備専門家を抱えているという意味で、工場と似たような条件の建物は病院とホテルである。(もちろん大規模な建物やグループの場合であるが・・・)
病院は各部門によって要求される技術の内容とレベルが異なる。何より人の命を預かるのであるから、設備の役割は重要であり、したがって大規模病院は自前の設備技術者を抱えている。物事の決定に際しては設備技術者だけでなく、看護婦の婦長さん(今は看護士長?)の発言力も大きい。
同様にホテルも顧客サービスの面ばかりでなく、水道光熱費が原価に関わってくるので、単なる施設管理者ではなく、社員としての設備技術者が営繕部門に存在している。
大手デベロッパーの場合は設備専門の技術者を抱えている場合もあるが、通常は建築技術者が設備も見ている。店舗ビル・オフィスビルの場合は建築技術者でもカバーできるが、大規模なものや複合用途の建物の場合は、設備専門技術者が必要である。マンションの場合も商品計画(企画)部門があるが、同様に設備技術者が必要である。
また、建築技術者、設備技術者がいる場合でも、責任と権限が必要である。責任と権限のないものが参画しても、その意見は無視されやすい。
事業者側に設備技術専門家が少ない現状では、建築設備のトラブル・クレームはなくならない。
トラブル・クレームの防止のためには、本来は建物の計画・設計にあたって、ビル管理者の経験と知見に基づく意見が反映されることが望ましいのは当然である。