建築設備トラブル概論 5.建築生産における情報断絶①
前項で、建築生産においては、品質管理の重要な手法であるPDCAサイクルに関し情報断絶があるという問題点を指摘したが、ここではどうして情報断絶が発生するかについて述べる。
情報断絶の要因としては、<計画から使われるまでの業務の流れにおける多種多様なプレーヤー>の存在と、<それに伴う報連相の欠如(情報断絶)が発生しやすい側面>がある。
また、設計業界における権威勾配の存在も設備トラブルの情報断絶に関連しているが、これについては、12章にて述べることとする。
5.1建設業務の流れと業務担当(標準)
建築物の計画から使われるまでの業務の流れを表にまとめると以下の表のようになる。事業者側が建物の建設を企画し、建築設計事務所に設計を発注、建築設計事務所作成の設計図に基づき施工会社に施工を発注して建物が完成する。住宅・マンション以外は、製品が大規模かつ複雑となるので、建築及び設備を管理する技術者が必要となる。
建物が計画されてから使われるまでは下図のように関係者が多数存在する。
建築物の計画から使われるまでの業務の流れと業務担当(標準)
工事区分 事業者 計画・設計(取合い) 設計(計算作図等) 施工 管理 使用者
建 築 デベロッパー 建築設計事務所 (建築協力事務所) ゼネコン ビル管理会社 テナント
構 造 / / (構造事務所)
空 調 ビルオーナー ゼネコン設計部 (設備設計事務所) サブコン
衛 生 (設備設計事務所) サブコン
電 気 (設備設計事務所) サブコン
この流れにおいて、事業計画部門/計画・設計部門/施工部門/ビル管理部門は通常それぞれ別個の会社である。製品の計画から、設計、製造、販売まで一つの会社が管轄する一般の工業製品とは流れが大きく違っている、しかも製品(建物)の設計・施工にかかわる分野は、建築・構造・設備(空調・衛生・電気)その他別途発注設備類と専門分野が区分されている。
上表で一般的な設計業務の流れと違っているのは、設計段階を、取合い段階と、計算作図段階に分けたことである。設計業務における、外注可能な業務は計算と作図である。
この段階での業務をどの立場の者が行うか(自社でまとめるか、外注か)については、設計事務所の規模・形態によって異なる。しかしこの業務を発注するためには、事前に計画を取りまとめ、建築・構造や他部門の設備との取り合いを必要とする。
5.2いたるところにある情報断絶
上図は、建設業務の一般的な流れをしめしたものであるが、各部門・各段階が線で分かれており、通常はそれぞれ別の会社・組織であるので、情報の伝達に断絶が起きるのは建築生産における構造的な問題であるといえる。
各区切りの線がそれぞれのバリアーを形成しているものと見て頂ければ、情報伝達が難しいことがわかっていただけるものと思う。
大手ゼネコンの場合は、建築設備を含めて設計から施工まで業務処理するのであるから、情報断絶は少ないとは思われるが、設計部門と施工部門にバリアーは存在するようである。
設備工事会社・ゼネコン各社は直接トラブルに対応する立場であるが、建物は一品生産品であるためトラブル発生状況や原因も違うので、認識を完全に共有することは難しい。また同じ設計や施工部門でも部や課はたくさんあるし、支店もある。トラブル情報は関係部門だけに流れて、技術部門全体での共有はなかなか難しい。これには、会社レベル、管理職レベルでの品質管理やトラブルに対する認識の差が大きいものと考えられる。
筆者の場合、定年退職に当たって隣席の同僚部長氏のトラブルファイルをコピーさせてもらったが、その中に全く知らない『マサカ』の話があった。部内会議は一緒に行い、トラブル情報もその会議で報告しており、何よりも隣の席にいたのであったが、それでも情報断絶もあったということである。また、設備でなく建築のトラブルでも筆者は知っていても、そのトラブルに関係のない隣席の建築部長は知らなかったといったことはよくあった。