建築設備トラブル概論 5.建築生産における情報断絶②
5.3情報断絶に関する、各段階・部門ごとの問題点
品質管理、トラブル情報に関し、上表の各段階・各部門ごとに問題点があるので以下に述べる。
・事業者:「工場用設備と建築用設備」の項で述べたように、設備専門の技術者を抱えているところが少ないのが問題である。専門技術者がいないとトラブル情報は蓄積されない。設計から施工に至るまで、事業計画にアドヴァイスできるような権限を持った技術者の存在は、トラブル防止の必要条件といってもよいと考えられる。
・設計者:建物の設計は建築設計事務所またはゼネコンの設計部で行われている。しかし、会社の規模により、構造・設備のスタッフのいない事務所も多い。したがって、トラブル情報を持つ設備技術者が計画の初期段階から参画していない場合がある。トラブル・クレームに関しては、設備トラブルでも建築設計者に直接情報が上がるが、設備は他人事と考えている建築設計者もあり、どの程度状況把握されるか、設計に反映されるかは不明である。小さなトラブルは、サブコン・ゼネコンが直接対応するので、トラブル情報が上がらないのは、大規模の設計事務所と同様である。
・施工者:本来は、上記のように直接対応する部門であるから、設備トラブル情報はたくさん蓄積されているはずである。各社とも、品質管理、トラブル防止を心掛けてはいるが、どの程度の成果があるのであろうか?格好いい話ではないので、小さなトラブルは表に出てこないで担当者レベルで止まってしまうことも多い。またトラブル情報が施工者段階で止まってしまうこともある。
別の見方をすると、品質はコストに比例する。したがって、請負形態に伴う、厳しい受注状況にある建築設備の工事部門においては、トラブルが発生しやすくなるのはある程度必然的ともいえる。
また、別途発注工事や、施主支給品は、上記表の範囲外であるので、トラブル発生状況はなかなか伝わりにくい。
・製品メーカー:煩雑になるので上表からは外したが、施工部門には部材・部品・製品のメーカーがたくさん含まれる。これらの採用に当たっては設計・施工者とも適切なものを選定しているが、時として不具合につながることがある。製品自体に不具合がなくても、P社のガス湯沸かし器のように設置状況によっては人身事故に繋がることもある。エアコン室外機の不適切な配置事例など、正しく使われなかった場合その他のトラブル情報を、メーカーはたくさん持っているはずであるが、これもなかなか表に出てこない。
・管理者:建物の管理運用上のノウハウはたくさん蓄積されていると思うが、それらを設計・施工に反映される場が少ない。筆者の現役時代は事業者側の管理者に建築・設備技術者がいたので、設計図が上がった時点での図面チェックは厳しかった。また、事業者側の設備技術者から、空調方式の変更を求められたこともある。