建築設備トラブル概論7.設備トラブルとクレーム①
トラブルと最も関係深い言葉にクレームがある。建築設備関係者に限らず、物を造っている者やサービスを提供している者の誰でもが忌避したい言葉である。一般的にはトラブルとクレームは同じような意味に捉えられていることが多いが、下記に述べるように本質的には違いがあり、トラブル解決や再発防止のためには、トラブルとクレームは分けて考えたい。
7.1設備トラブルとクレーム‐CSとの関連
クレームとは製品の品質に関し顧客からの不平不満の対象になった事象・現象といってよいであろう。最近は、品質に関する要求が厳しすぎる傾向もあり、所謂クレーマーという言葉にあるような極端なケースもあるが、ここでは一般的なトラブル・不具合に対する話とする。既述のように許容限度が広いことの裏返しとして、使用者側で受忍限度が低い方の存在がある。住宅やマンションのトラブルに関しては、この要因によるトラブルが多い。許容範囲を当てにする事は、トラブルを大きくさせかねないので、注意が必要である。
クレームは CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)との関連で捉えられるものであるから、対象は製品の不具合である。顧客にとってはトラブルや不具合は全くないのが望ましいことであるから、製造者側の計画条件や設計条件への理解・配慮は全く関係ない。
然し工事費による設備グレードの差に関しては対応出来ることと出来ないことがあることは認識してほしいことであるる。
一品生産・現場生産という制約条件からは、品質に関しての許容範囲(不具合の程度)を理解してほしいところではあるが、なかなか難しい。
従って、クレームは「品質に関する製造者と発注者・使用者との認識(要求レベル)の乖離により発生」するといえる。CSと関連が深いということは、小さなトラブルや許容範囲の物も対応次第でクレームになるということである。大げさに考えれば企業の危機管理上はトラブルをクレームにしないための工夫・対応が大切である。
また、建築設備の場合は建物種類・使用条件がまちまちな一品生産物であり、あらゆる使用条件に対して要求レベルが設定されているわけではない。従って上記の乖離は色々な状況で発生する。品質に関する要求レベルは一般的にはユーザー側の方が高いので、製造者側にとっては工事費や設計・施工の条件や設計グレード・建物との関連等でこの程度は合格と考えていても使用者側では問題ある物と考えていることは良くある。クレームの発生するゆえんである。
品質のグレードや不具合に対する説明不足もクレームになりやすい。
7.2 トラブルをクレームと捉えてはいけない
トラブル・不具合に対する顧客の要求をクレームと捉えるのは、望ましいことではない。
クレームという言葉の裏には自分は正しいという意識があり、受身の考え方である。この言葉の中にはユーザーサイドがこうむっているトラブルに対する配慮が欠けている。
CS上は使用してはいけない言葉と考える。
また上記のような意味合いからは、情報が上にあがらない傾向となり、反省も少なくなる。「建築設備トラブルシューティング」(オーム社)には、「・・・クレームと言うとらえ方をする限り、『クレームがこないことは、クレームが存在しない』という設計者・施工者・監理者の自己弁護につながっていて・・・」とある。
トラブルがクレームになっていない場合もあるが、実際には関係者の「あきらめ」と「我慢」によることが多い。我慢情報は住宅トラブルのホームページの相談コーナーによく見られるが、フィーリングでものをいっている場合が多い。
小さな不具合をクレームにしないためには、設計条件や使用条件の数値化・明確化だけでなく、建築設備の品質やグレードに関する許容範囲をユーザー側に認識してもらうことも必要である。