建築設備トラブル概論 9 設備トラブルの種類と区分⑤

2023年07月30日

9.4 専門外分野のトラブル

建築設備の工事区分は、各設備ごとに分けられているが、他の分野の業務が全く含まれないわけではない。その場合は他部門の技術は専門外となるので、各部門の専門の技術者にとっては考えられないようなトラブルが、別の部門で発生する事はよくある。

一応建築設備士や空調衛生工学会設備士の資格を有し、設計や施工にあたって共同作業をおこなっているのであるから、他部門の技術についても知っているはずであるが、専門外のことにはやはり弱い傾向がある。社員教育もされていようが、基本的には経験工学であるから、見よう見まねのところもあり思わぬトラブルを引き起こしている。

これらトラブルの場合は経験の差によるものであるから、引き起こした当事者にとっては『マサカ』であるが、原理原則が分っている夫々の専門業種の技術者にとっては『マタカ』である。空調設備の専門家から、給排水設備も併せた機械設備設計者となった筆者にとっては、給排水設備のトラブルの多くは「マサカ」であった。したがって、「設備と管理」誌での「マサカ」の話の連載の初期には給排水設備トラブルの紹介が多い。

各業種ごとのトラブルのうち、専門外の分野に関わるトラブルは、夫々の分野の技術者の特徴が出ていて面白い。一般的傾向について筆者の経験に基づく考察を述べる。

  • 空調設備に含まれる専門外工事は、給水設備(装置給水用、加湿用補給水)、排水設備(ドレン、水抜き)と電気設備(動力)工事である。給水設備は、機械室内突出しバルブ止め以降が空調設備工事であるから、問題は少ない。空調配管は密閉配管であるから、ドレン排水配管のような開放配管で、漏水、逆流が発生することへの理解が甘い。

空調設備の個別方式の普及に伴い、エアコンドレンの漏水トラブルは多くなってきている。ドレンは排水設備であるから、排出先によっては端末からの臭気逆流の恐れがあるが、この認識が甘いことがある。また、ドレン排水配管には水抜き配管を接続することが多く、メンテナンスや改修工事の水抜きの際に大量排水による逆流の可能性が理解できていない場合もある。

動力設備に関しては、空調設備の設計・施工範囲に入ることが多くトラブルは少ない。

  • 給排水設備技術者は、電気設備、換気設備に弱い。特にマンション設備は、給排水・換気をまとめて受注することが多いので、換気に弱い技術者は建築意匠設計者への技術的サポートができないのでトラブル防止の役に立たないことがある。
  • 電気設備にはマンションの換気扇やエアコンが含まれることがある以外は、専門外工事を含むことは少ない。しかし水漏れ・空気漏れ等、電線管やボックス類を通じて、液体(水)・気体(空気・水蒸気・臭気・汚染空気等)や音が流れる事が理解できないようである。

特にコンクリート打ち込み配管が、建物外壁北面や冷凍・冷蔵庫躯体壁に打ち込まれた場合の結露の発生については多数の事例がある。自動制御屋も同様である。

又、引き込み配管の地中外壁からの浸水についても大きな事故とはなっていないが少なからず発生しているものと思われる。

  • 特殊設備技術者(水処理施設、温浴・プール施設、水景施設等々)は自分の専門分野が、建築や他の設備にどのように係っているのかについて、知識が不足していることが多く、これら特殊設備を組み込む上位設備の技術者のカバーが必要である。
  • 建築意匠設計者については、特別に経験したもの以外は、設備トラブルに弱いのは仕方がない。しかし、設備トラブルは全てエンジニアリングトラブルと捉えている者が多く、場合によっては自分がトラブル原因者となっていることを理解していないものもいる。

最近のマンション設備の気密トラブルのように、システム全般を見る者がいない場合は、建築意匠設計者の責任が重大である。

このほか、トラブルを現象別に分けると、各設備特有のものや、「騒音」や「漏水」のように各設備共通のトラブルもある。トラブル現象ごとの区分は大きくなるので、次項にて述べることとする。

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