建築設備トラブル概論1.3、1.4
1.3 建築設備トラブルとは
本書では、設備トラブルは機器類の故障、取扱いミスを含む建築設備(完成品)に対する不具合全般として取り扱う。その内容は東京渋谷のガス爆発や一連のガス湯沸かし器事故のような人身事故から、使う側の感じ方の個人差によって不具合になったりならなかったりする軽微な騒音トラブルまで、その種類と幅は大変大きい。また、機能不全、漏水、臭気といったあきらかに原因が把握できるトラブルから、諸条件が合わないと発生しないような「マサカ」のトラブルもある。
建築設備は工業製品と異なり一品生産・現場生産という品質管理上大きな制約があり、事故は別として各種不具合の発生を完全に防止するのは非常に難しい。
不具合は何らかの形で解決が必要であるから、このためには関係各社や技術者はそれなりの対応を迫られる。大きなものは金銭的・時間的負担、小さなものでも時間的な負担を強いられるわけであるから、不具合の発生は、事業者・設計者・施工者・管理者にとっても大なり小なりトラブルである。したがって、クレームといった後ろ向きの姿勢になりがちであるが、後述するようにトラブルをクレームと言った側面でとらえてはいけない。
1.4 技術基準と許容範囲
建築設備トラブルには許容範囲があることがその特徴の一つである。これは使用者側にも事業者側にも存在している。例えば給水の圧力について言えば、減圧弁等の圧力調整装置がない場合は、最上階の水圧が高く、下の階ほど高い。水の出方は良い方が使い勝手が良いが、水圧が高すぎれば使いにくい。水の出方が悪いといっても、昔の高置水槽方式では簡単に水圧は上がらない。器具類の使用に差しさわりがない限りは我慢してもらうことになる。排水に関しても、極端なことを言えばゴボゴボ音がしても水は流れる。
空調に関しても人間は精密機械ではないから、室内温湿度の快適性には幅がある。夏場の湿度コントロールは設置されていないことの方が多く、成行き制御が一般的である。ペリメーター負荷は処理方法により違いがあるが、おおむね窓側は夏暑く冬は寒い。温度についてわがままな(許容幅が狭い)偉い方が窓側に座っていると、冷暖房が効かないというトラブルになる。
設備騒音についても、暗騒音との関連があるが感じ方に個人差がある。しかも気になり始めたら、対応処置を行って数値的には小さい音になっても聞き分けられてしまう。
このように許容範囲があることが、トラブル対応を複雑にしている。事業者、施工者側にとっては、使用者側の許容範囲が大きいことが望ましい。したがって、許容範囲が狭いユーザー側の品質要求をクレームととらえる傾向がある。クレームについては後述する。