建築設備トラブル概論(13)建築設備トラブルとハインリッヒの法則①
「設備と管理」誌の連載「マサカの話」では、「建築設備トラブル概論」のサブタイトルでまとめた記事がある。単行本に出来るように手を加えているが、皆さんの参考になるようにここに載せることにした。
内容はどちらかというと、真面目で堅苦しい話なので、第1回目は若干砕けた話とする。
1.建築・設備のトラブルにはハインリッヒの法則は当てはまらない
事故・トラブルに関して、ハインリッヒの法則というものがあることは良く知られている。1件の重大な事故の発生前には、29件の軽微な事故があり、その前には300件のヒヤリ・ハットの事例があるということである。
建築・設備のトラブルについてはこの法則は成り立たない。何故か?
建築・設備のヒヤリ・ハットや軽微のトラブルは、その程度は別としてすべて機能障害につながる。また軽微なトラブルであっても重大事故につながる恐れがある場合は、予測可能である。
従って、軽微な段階で対応、手直しされるので重大事故にはつながらないと考えられる。
2.ハインリッヒの法則が成り立った設備トラブル
筆者がコンサルタントをした物件で、この法則通りの事例があったのでお話しする。
詳細は言えないが、敷地が前面道路より低いマンションで、排水は自然放流できないので、ポンプアップ方式であった。
ここの排水槽は、設計時は建物の地下ピットであったが工事中にFRP製のタンクに変更された。竣工後①満水警報の頻発、②排水ポンプの故障警報と続き、ついには③ポンプ停止により1階の住居に排水が溢れるという大事故となった。
原因は排水槽の清掃不良であった。施工会社からは清掃間隔を短くするよう申入れがあったが、デベロッパー、管理会社とも対応せず、この法則が成り立ってしまったのである。清掃頻度をあげたらヒヤリ・ハットも納まってしまったとの事である。
3.ヒヤリ・ハットを感知できずに大事故となった。
建築・設備の重大な事故は、ハインリッヒの法則に関係なく突然発生することがある。炭酸ガス消火設備による人身事故のように、危険な設備の機能をよく理解していなかったのが原因であり、消防法に技術基準が改善される予定である。
スプリンクラー設備のヘッドに物が当たって破損し、水害となるのもこの類である。
ハインリッヒの法則の対象外といってよいであろう。
雨水の事故は、ヒヤリハットを通り越して大事故となることがあるが、豪雨時や道路の冠水は予測可能なので、設計ミスまたは配慮不足といえる
トラブル・事故によっては、ヒヤリ・ハットが感知されなかったり、小さな事故が起こらない場合がある。
渋谷のスポーツ施設でのガス爆発事故は、このケースにあたる。したがって何らかの形でヒヤリ・ハットを感知することが必要である。この場合はガス感知器が設置されていれば、水抜きの不備による事故を防ぐことができたと考えられる。
この事故に関しては、このホームページの『マサカ』の話事例集に「警報装置の効能書」として載せてあるのでご覧ください。