建築設計と設備トラブル(1)-②
◆設備設計と計画
先ごろなくなられた筆者の恩師、井上宇市先生の名著の一つに「設備計画法」(コロナ社・絶版)がある。この「はしがき」には『建築に対して設備をいかに適用するかということは設備の設計者ばかりでなく、建築家にとっても等閑にできない問題である。しかるにいままでに出版された設備の教科書や参考書の多くは設備用諸機器の設計のみに重点がおかれ、設備の適用に関してはほとんど触れられていないうらみがある。
筆者はこのような点を考えて、1953年以来、建築の大学院学生に対する一般抗議において主に設備の適用に関して講義を行ってきた。この8年間における教案をもとにして、一般にはやや難解と思われる点をはぶき、最近の資料を補足して、ここに一本をまとめ、題して建築計画法と名付けた。(以下略)』とある。筆者は学生時代にこれを教科書として設備の計画法を学んだ。
序論では「建築の設計における設備計画のあり方」として、『従来の設備設計の方法』、『誰が設備計画をしたらよいのか』、『設備計画における目標』と題し、設備計画家の必要性について述べられている。この時代には、「設備に関しては従来は建築家から完成に近い平面図をあたえられて、これに対して設計を行う場合が多かった」と述べられているように、建築計画がある程度進行した段階で、設備スペースがほとんど配慮されていない図面に設備計画を行っていたようである。
これでは設備計画が進むにつれて、建築図のあちこちに必要スペースを取らなければならず、設備にとっても建築にとっても手戻りが大変であったろうと思われる。筆者も定年後、友人の知り合いの事務所で計画段階の図面を見てほしいといわれたが、そのまま設計図にしても良いようなきちんとまとまった建築図面をみせられ、手のつけようもなくびっくりしたことがある。
先生のご意見のように設備計画が行われていれば、ベテラン設備計画家の意見が早めに建築計画に反映され、建築設備運用管理時の不具合・トラブルは大幅に減少するものと思われる。しかし、プロジェクトによっては、設備計画不在の設計があり、未だにビル管理者に迷惑をかけることが多いのが現状である。
計画と設計は英語で言えばいずれも、PLANNINGであるが、設備に関しては、与えられた建築物に対し、使用条件・負荷条件に配慮して、システム計画を行い、(機械室、DS、PS等の)スペース計画・(配管・ダクト類をどのように展開するかの)ルート計画・(建築の内装・外装面に現れる設備器具類をどのように配置するかの)端末計画を行うことが計画であり、この計画に基づいて設備設計計算を行い、機器を選定し配管・ダクトのサイズ及び端末機器を選定・配置することが設計である。設計には設備設計図の作成が含まれるのは勿論であり、工事予算書も作成する。
空調・衛生・電気設備においてどのようなシステムを構築するかは、建物の計画の基本である。また、システム計画によりどのようなスペースが必要となるのか、空気・水・電気をどのようなルートで各室に供給するの、これが決まっていないと、設備計算にも入れないし、設計図にも着手できない。設備計画が重要であるゆえんである。
階高設定には構造設計者の関与も必要である。高さ制限や斜線制限の中で、事業計画に合うように容積率内での建築規模が決まるのは計画の早い段階である。これが決まってしまうと後からの変更は難しい。建築計画の初期段階から設備計画・構造計画を行う必要性と重要性がお分かりいただいたであろうか。
建築設計者が設備計画を出来れば最も望ましいことであるが、個人の持つアビリティとキャパシティには限界がある。したがって昔と比べ建築に関する各種規制が非常に厳しくなっている現状では、建築設計者は自分の責任範囲を守るだけでも目一杯である。来月以降は、建築設計上のマサカを含めてお話しする。
設備技術者の修業時代でお話したように、筆者がサブコンに入社したころは、設備=エンジニアリング(今でもそうであるが)の色が濃く残っていた時代でもあり、サブコン独自で設計施工を任されていたことが多い。したがって建築計画の当初から建築設備に関する専門技術者が参画しており、建築計画関連のトラブル発生はかえって少なかったのではないかと思われる。