建築設計と設備トラブル⑧-② ~技術の狭間にトラブルがおこる~
■技術の狭間はどこに生じるか
建築設計における、設計の分担区分、工事区分から、技術の狭間が生じやすい分野をあげてみると、トラブルやクレームの多く発生する分野に集まっているのがおもしろい。
- 雨排水処理のトラブル
以前に「雨によるマサカの話」で述べたように、ルーフドレインの配置計画及び雨排水立て管の計画・設計は建築設計者が行い、これを雨水桝でつないで敷地外部に排出するのは設備設計者での業務範囲である。敷地内の排水計画も同様に建築設計者が計画を行い、グレーチングや側溝で集められた雨水は、屋根からの雨排水と合わせ設備設計者が排水計画・設計を行う。大規模な開発計画などでは、土木設計者が敷地排水計画を行う。この間に、技術の狭間がありトラブルが発生する。
集中豪雨時や河川の氾濫時に外部からの浸水への対処の仕方にも狭間がある。今までに「マサカの話」紹介したほどの豪雨時でなくても浸水の事例はたくさんある。何も対応しないのは問題外であるが、自分の分野である建築だけで対応を考えると狭間が生じる。排水管からの逆流という別ルートからの浸水トラブルを知らなかったということもあるが、設計条件として、設備技術者に対応を求めておくことが望ましい形である。
- 換気設備のトラブル
一般ビルの場合は、換気設備に関しては計画・設計は設備技術者に任されているから、技術の狭間は発生しない。マンションの場合でも、設備設計者が関与する場合は厨房・浴室・便所の排気の設計と居室の機械換気が責任範囲であるから、換気レジスター・ガラリ等建築設計に要求するものに落ちはすくない。しかし、高気密サッシの採用(=気密度の向上)という要因が設備設計者に伝わっていなければ、狭間が発生し、色々ご紹介したようなトラブルとなる。
設備設計者が関与しない場合は、建築設計者が換気計画を行わなければならないから、この部分が狭間というより空白となってしまう。一応24時間換気計画はメーカーに依頼、レンジフードは厨房機器メーカーに任せることは可能であるが、建築設計者が換気レジスターの選定のみ行うといったケースでは、技術レベルの問題もあって狭間が発生しやすいのは当然である。
FE型湯沸かし器トラブルの発生も、気密度と換気設備に深く関係しており、技術の狭間で人身事故が生じたケースに該当すると考えられる。
- 音のトラブル
音に関する不具合・トラブルの発生は、建物や設備に対して本来要求される機能の範囲外にある。もちろん、機器類の音や振動が大きくて良いわけはないから、設備設計者は防震架台・防震吊り具等の対応を行っているが、建築設計者は設備で対応すれば問題なかろうと、ポンプ室の上に寝室を配置する。これぞ技術の狭間であるといえる。設備機械室と他の部屋との配置関係は設備設計者がカバーするケースが多いが、設備との関係が少ない部屋の配置計画には設備設計者が関与せず技術の空白により、トラブルが発生しやすい。ホテルやリゾート施設で、最上階にプールや飲食店厨房を配置するような事例である。
- デザイン偏重に伴うトラブル
デザイン偏重によるトラブルは設備関連だけではないが、最近はビルマルチエアコンの普及に伴い、冷房時の室外機排気のショートカットによる運転停止トラブルが多い。この場合は技術の狭間というよりは、設備技術者の技量不足か、建築設計者のわがままによるものであろう。
又、別途工事で設備技術者が関与しない場合も、建築設計者対メーカーという関係となって技術の狭間が発生しやすい。こうして考えると、技術の狭間は計画・設計の狭間に発生すると言える。