建築設計と設備トラブル⑨-①  ~社長名の始末書は鬼の首~

2023年04月30日

設計業務の忙しさを述べた際に、以前と比べ雑務の比率が設計業務より多くなっていることをお話したが、これは提出しなければならない書類がたくさんに増えたことにもつながる。気がついたら設計だけでなく施工側もたくさんの届出書類がふえている。ビル管理の側の届出書類も多くなっていることと思われる。

◆着工時期はいつなのか

 建築や設備に関する多くの申請書や届出書は、着工1ヶ月前に提出することを義務付けているものが多い。新しい法律が出来て、所轄官庁が建築の工事工程に疎い場合は着工時期に関して問題が生じる。言うまでも無く、建築の着工と設備機器設置の時期とのずれである。

 長い建築施工期間の中で、建築設備の着工(機器類の設置)時期をいつとみなすか。常識的に考えれば、機器や設備の着工1ヶ月前であろう。しかし所轄によっては着工を建築の着工とみなすところが多い。建築の着工を縄張りや根伐の開始とみなすと、その1ヶ月前は設計の真っ最中である。確認申請は提出済みであっても、詳細な機器仕様はまだ決まっておらず、この場合は内容決定前に届けを出すという矛盾が発生する。公害関係、騒音防止法における機器類の設置がそれであり、インフラの申し込みや省エネ情報関係の手続きも同様である。

消防関係は事前に相談することも多く、建築工程も良く分かっているので、消防設備(自火報や消火栓設備等)の設置届けを建築着工1ヶ月前に提出せよなどという無茶な要求は無い。また建物によっては開業届けが必要な施設もあるが、建築着工とは関係ないことのほうが多いようである。

設備機器の場合、設計時の仕様で届出書を作成すると、実際に設置される機器と違うことがある。この場合は再提出となり余計な手間が生じる。手間も困るが下記のように、届出者(おおむね事業者側の社長が多い)名の始末書または詫び状の提出を要求されるのは大変困る。

◆虚偽の申告で社長名始末書を要求

 某地方都市に、新しいコンセプトの商業ビルが計画された。東京に本格的なビルを建てる前に、そちらで仮設的なビルを建設し、様子を見ようという目論見であった。したがって規模は敷地いっぱいの1階建てであった。空調方式は公称100RTの水冷パッケージ1台による単一ダクト方式で、暖房熱源はガス焚き温水器とした。冷却塔は敷地内に直設置であった。事前協議が必要であったので書類を作成し、役所内各所に回って着工が許可された。仮設的建物なので短期間に竣工となった。

竣工前後に市の各部署の方々が来られた。新しいコンセプトの店なので色々興味があったのであろう。この際、店内に設置された大型の電動木工機器が、当時制定された騒音防止条例の対象となることが分かった。別途工事でもあり、この手の機器の設置は始めてであったので、事業者側も機器メーカーも気がつかなかったのである。

来たついでにと、役所の公害関係の方が地上に置かれた冷却塔の電動機を調べた。点検用のはしごがあるので簡単に登れたのである。ここで事前協議書に記載された1.5kWの電動機が実際に設置されたものは2.2kWであることが分かった。電動木工機器の届けが出ていないこともあって、担当の方が怒った。『虚偽の申告である!届け者名(=社長名)で詫び状を出せ』ということになった。実は冷却塔の方も公害防止条例の届けが出ていなかった。事前協議の説明などには行っていたので、工期が短かったこともあり、てっきり届けが出ていたものと勘違いしていたのである。

建築設計のマネージャーがその市の住民であったので、折衝窓口となった。筆者の経歴をご存知の方はお分かりと思うが、筆者の設計事務所が所属するグループの長といえば、財界の大物である。 大物の名前の始末書をとられたら、先方は鬼の首を取ったようなものであろうが、サラリーマンは身の破滅である。その方の名の始末書など出せるわけが無い。マネージャーは「私が首になります(実際にはなるわけは無いが)」とがんばって、自分の名前の始末書で勘弁していただいた。

通常のトラブル・クレームは、施工者側が原因となることが多い。筆者のサブコンでの先輩も社長名の詫び状を要求されたことが何度もあったそうで、このような場合の決まり文句も、「社長名の詫び状を出したら、サラリーマンは一生浮かばれません」というような台詞であったと聞いた。

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