建築設計と設備トラブル(10)  ~負担金で決まる設備システム①~(2010年7月号)

2023年05月04日

オーム社の「設備と管理」誌の連載「マサカの話」のうち、単行本に載せなかった原稿を紹介しているが、よく読むと現在とはいろいろな状況の違いがある。と言う事で、掲載時の年月を記入することにした。

読まれる方は、ン年前はこんなことがあったのだなと思っていただきたい。


先月は社長名の始末書の話であったが、不具合是正のための費用が発生した場合には、誰が負担するかが問題である。よくあるのが、「三方一両損」方式である。大岡裁き同様に、事業者・設計者・施工者それぞれが、費用負担する方式であるが、困るのは設計事務所負担が応分でない場合が多いということである。三社同額の場合は、設計料率3%では、負担率が非常に大きい。といってこのような場合でも設計責任が全くないわけではない。設計料率相当分の負担はきわめてわずかであり、費用負担に値しない。難しいところである。

さて今月は、現場調査に伴う負担金がシステム計画に影響あるという話である。

設計に入る前にインフラ調査が必要である。設備に関して言えば、上下水道・ガス・電気である。これらの整備状況は建物設備設計の重要な条件であるから、現地の調査を行う。略して「現調」とよんでいる。

◆負担金で決まる設備のシステム

上下水道の供給を受ける場合には、負担金等がシステムに与える影響は少ない。これに対し、ガス・電気といったエネルギーは代替エネルギーの利用が可能で、システム比較が経済性の範囲内にある。なおかつ最近では省エネルギーといった観点からのアプローチもある。したがって、建物、特に暖房・給湯設備の計画に当って、エネルギー供給のための負担金・補助金の有無はシステム決定のための大きな要因となることはよくある。

◆全電化システムは高級か?

 現在のマンションの熱源システムはガスにするか電気にするか、熾烈な戦いの状況にある。電化マンションについては、30年近く前に当時の人気タレントが入居した都内の高級住宅地に建てられたマンションがそのはしりであったと記憶している。この際は「全電化マンション=高級」が売り物とされた。設備のグレードでいえば、冷暖房についていえば全室冷暖房設置が高級といえるし、電気式床暖房も面状発熱体によるものも出来ていた。しかし給湯システムとしては、当時の電気温水器は圧力容器の基準外のものであって、使用圧力が低く高級とはいえない。目玉を何にするか、当時のデヴェロッパーは外国製の電気式調理器に目を付けたのである。主にドイツ製が多かったが、舶来の電気式厨房器具は当時のガス式の高級厨房器具に比べてもたしかに高級感があった。これに、当時は一般的でなかった食器洗浄器が組み合わされ高級マンションとして市場価値が生まれた。

ところがこれには裏があった。建設地は戦前からの高級住宅地であり、各住宅の敷地面積は大きい。住戸の密度もひくいのでガスの本管も細く、大規模開発にはガスの本管の敷設替えが必要となる。この負担金が億単位となってやむを得ず全電化方式となったのである。高級住宅地であるから、土地の取得価格も高く、分譲マンションとしての商品価格は上がらざるを得ない。したがって、電化厨房が高級であるといううたい文句で商品計画が行われたのである。この企画はどうやら成功したようである。

 現在ではIHヒーター、エコキュートなど、当時とは比べ物にならない機器類が使われており、高級というより、標準的な設備となっている。

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