建築設計と設備トラブル(10) ~負担金で決まる設備システム②~(2010年7月号)
◆住棟セントラル給湯・暖房方式も負担金対策
マンションの給湯システムはほとんどが戸別セントラル方式であるが、一部に住棟セントラル給湯・暖房方式を採用したものがある。デベロッパーからの新しいシステムの開発要請に応じて、西欧の寒い地域での採用事例を導入したものである。 この方式は貯湯槽方式ではなく、熱交換器方式であり、温水機・熱源水配管・熱交換器で構成されている。メーターボックス内に設置された熱交換器に熱源水を送り、水を加熱して給湯する方式であり、ガス会社でも同じようなシステムを持っている。地域暖房地域においても、住棟機械室に住棟専用の熱交換器を設置し、地域熱源媒体(高温水・蒸気)と熱交換するので、住棟内のシステムは同じような方式となっているものもある。
※現在のマンションの給湯設備はガス湯沸かし器が主体である。また、暖房も冷房設備の普及に伴いヒートポンプによるものが多くなっている。本稿は20年近く前にセントラル給湯・暖房方式が設置されていた頃の話である。
当初の開発意図は、温水機の燃料に当時安かった重油・灯油を用いて、エネルギーコストを下げることにより、マンションの付加価値を高めようというのが狙いであった。ガス給湯器が現在ほど多機能となっていない時代であったので、給湯・暖房費が安くなることは、マンション販売上のメリットが大きく、一時多く採用された。
大型の開発の場合は当然ガス本管の敷設換えが必要となり負担金が発生する。このシステムを採用していたデベロッパーでは、負担金の値引き交渉の材料にこのシステムを使ったそうである。「負担金を負けてくれないと、マンションの給湯システムは油焚きの住棟セントラル方式にするよ」というわけで、この交渉手段は有効であったと聞いている。最近は原油価格も高騰しており、この手は使えなくなっている。
◆住棟セントラル方式の継続使用案
上記システムは、住民の共用施設であり、保守管理が必要である。取替え時期に入った熱源機(温水機、ガス給湯器)をどうするかは、管理組合の重要課題である。これについては熱供給事業化を行っている事例があるので紹介する。一口で言えば、熱源機及びポンプの取替え工事費一式及びその後の保守管理も事業者が負担し、エネルギー使用量を利用者(入居者)が支払うというシステムである。機械室は管理組合から借用する。これにより、管理組合がセントラルシステムの主要機器を管理しなければならないという不便さは解消する。また、地域熱供給地域でも、上記のようなシステムを地点熱供給と称してこれへの切り替えを求めているところもある。ガス会社のシステムの場合も同様である。
◆誰が得する?ソーラーシステム
負担金とは関係ないが、新しい機器やシステムの採用に際してはシステム比較を行う。それぞれの機能・性能だけでなくメンテのしやすさなどにも配慮される。イニシアルコスト、ランニングコスト、負担金や補助金の有無も比較対照の大きなポイントである。投資者と受益者が同じ場合は何年で元が取れるかによって決まることが多いが、違う場合は別の要因が決定の鍵を握る。
30年以上前(※40年近く前)のソーラーシステムブームの際は、暖房・給湯が対象であった。毎年のように上がってゆく原油価格を背景に、メーカーは専門の事業部まで作ったところもある。
筆者の会社で、ソーラーシステムをマンションに採用してはどうかと、デベロッパーから検討を求められたこともある。しかし、給湯・暖房が対象では、需要と供給の関係がマッチしない。わが国では、集熱量は夏が最大で、給湯・暖房用エネルギー需要は冬が最大である。負荷と集熱量のバランスをとってコストスタディを行った。しかし金を出すのはデヴェロッパー、恩恵を受けるのはマンション購入者となると、ソーラーシステムの位置づけはどこになるか?マンション販売促進の目玉となるかどうかであった。このときは、結局設置は見送られた。
現在では、省エネ性が売り物になるし、デベロッパー側の環境に対する姿勢を表に出せるということで、太陽光発電システムが、分譲マンションにも設置されるようになっている。