建築設計と設備トラブル(7)‐②~設計図面の整合性について~
◆工事監理段階での設計変更
工事監理業務は施工図をもとに設計図どおり施工されているかを確認する業務のほか、製作に当ってのディテールを決めるという生産設計業務である。設備の分野では、設計時にはっきりしていなかった運営・管理に関して詳細をつめる段階でもある。また、大きな声では言えないが、設計図の不備を修正するという業務も一部含まれている。
従来は事業者側の要求や、意匠設計者の意向によって失われた整合性を是正するという側面が大きかったが、最近の厳しい審査の下ではどのように改善されたのであろうか?
しかし、民間の物件においては、工事監理段階で大きな時間をとられるのは設計変更業務である。筆者の経験では、事業者側の設計図に対する認識は予算取りのための図面であった。地方の百貨店では店長が決まってから売り場計画が始まったり、ホテルの場合も支配人が決まってから事業計画の見直しが行われたこともある。建築の変更だけでなく、空調設備も空調系統を統合したり、分割したりということがあった。
実施段階での変更例として、先月とりあげた某ショッピングセンターの冷凍ケースの配列も、店長が決まってからまたまた90°変更となり、食品売り場の床構造がPCパネル工法であったため、冷凍用の冷媒配管ピットの取り合いで現場監理担当者や施工業者が大いに泣かされたことであった。
構造設計者も事業主や設計の大先生の意向には逆らえない。場合によっては階段や耐力壁の位置が変更になることすらあった。昔は柱さえ抜いてしまった話を聞いている。45年以上前竣工した筆者の始めての現場では、コンクリートが最上階まで立ち上がる間に煙突の位置が3回変わった。最終的に決まった位置に合わせて、下の階のコンクリート躯体は壊して打ち直しとなった。ここまでではなくとも細かい変更はたくさんある。
今回の建築基準法改正では、構造の変更は確認申請の出しなおし(その間は工事停止)という厳しい規制になったのは当然である。しかし構造以外の変更に対して、確認申請の出しなおし迄を求めることは厳しすぎる措置である、財産権の侵害ではないかと考える。事業者にとっては多額の投資をする以上は出来るだけ望ましい建物とし、採算性を上げたいのは当然である。民間建築の経験の少ない方々による建築基準法制度の見直しは建築業務の実態を十分に反映したものとは思えない。
ただし、施工段階の設計変更は設計料や変更の検討料の支払いが前提である。それがないなら確認申請図どおりに建設するまでのこと、唯働きの分がなくなれば設計事務所、施工会社も施工現場の業務が大幅に改善されるであろう。
以上のような多くの変更に対して、工事段階で構造の指示書が出される。設計図の食い違いを是正するものや設備・建築との検討不足、事業者からの変更等々、A4用紙で数十枚に及ぶこともある。阪神・淡路大震災で、新耐震基準により設計された建物が破壊されずに残ったのは、これらの指示が適切であったからであったからであると筆者は考えている。