空調設備のマサカ⑨
2.5 グレード設定
建築の場合は、高級感や質感のある素材を使うことにより、グレード設計が可能である。当然室内空間もそれに見合ったものとなる。簡単に言えば高級シティホテルとビジネスホテル、高級マンションと大衆マンションといったグレードの違いはある。マンションの場合は立地条件による単なる高額マンションの場合もある。この場合はいかにして価格に見合った高級なものに見せるかといったレベルになる。
設備設計の場合は、平方メートル当たりいくらという単価が、どの程度のレベル内容なのかわからないのが困る。建築内装に合わせて、吹出し口の材質に配慮することはあるが、機器・資材に関して高級グレード設定が難しい。計器類に関しては、工業計器の採用という選択肢はある。
いずれにしても、事業者は、予算は厳しいが求めるレベルは高いので、設備のグレードについて計画書などで説明し了解を得ておく必要がある。予算がなかったので、冷房の効きが悪いとか、不具合があっても仕方ないとかは許して貰えない。
グレード設定に関する項目をあげてみるが、今まで述べてきたことのレベル設定版といえる。
- 温湿度設計条件:外気温湿度は建設地の過去最高の温湿度、室内温湿度が冷房時23℃、50%が最高レベルとなろうが、この省エネ時代に、どんなに暑くても冷えているなどの設計をしたら無駄設計を行ったとして責められるであろう。と言って室温28℃で設計したら問題が多い。テナントのクレームで最も多いのが暑い寒いであるから、26℃50~60%のグレード条件は変えられない。
- 機器類選定の余裕率:余裕のありすぎが空調設計の問題点であるから、ある程度のグレード設定の低い方への変更は可能かと思われる。但し、説得が難しい。
- ゾーニング(空調設備の系統分割):できるだけの細分化が望ましいので、個別方式が最もグレードが高いことになる。セントラル方式の場合は、大型量販店などでは空調機1台で床面積2000㎡以上を受け持つ場合もあれば、オフィスビルでのVAVユニットのように100㎡程度ごとに設置される場合もある。
筆者が最初に竣工した建物は、各階ユニット方式(各階2台)でレヒーター制御(5系統)を行っていた。それ以前の建物では、5000㎡程度の建物で、空調機1台、冷凍機、ボイラ各1台という、本物のセントラル方式もあった。さすがにいくら設備費が安くてもこのような方式は最近は全く見られない。
- 熱源機器の台数と容量:負荷状況に応じて必要台数のみ運転できるようになっていることが望ましいので、熱源機器の複数台設置は、小規模ビルでも行っている。ただし、必要容量のほかに、予備機を1台追加設置する場合もある。この場合は、負荷計算よりも熱源機器総容量が大きくなるが、これは設備のグレードが高いということになるのであろうか?
- 温度分布とドラフト:問題とならないように配慮設計されているはずであるが、多様な負荷条件・使用条件化では、運転してみなければ分からないのが現状であろう。温度幅○℃以下、ドラフト○m/sec以下などと条件設定するわけには行かない。暑い寒いのトラブルの際に、この設計条件の値を示して許してもらえるであろうか。
天井カセットタイプの小型エアコンは、冬季のドラフトが大きな欠点であるが、沢山ある他のメリットによって、カバーされているといえる。
- 温度制御幅:熱源機やエアコン、自動制御機器の場合は、上記と違い機器の仕様であるから、表示は可能である。機器の竣工図や取扱説明書をのなかを探せばどこかに記入されてはいるが、設計仕様として表示すべきであろう。どのように制御されているのか分からないでは、本来のビル管理は出来ない。
制御幅は、室内温度分布に係るので、小さい方がグレードが良いことになる。その意味では、エアコンの小型機に関しては、高グレードといえる。
- メンテナンス性、計量への配慮:省エネのためには、エネルギー使用量の把握が重要である。細かく把握できることはグレードが高いといってよい。コストアップは仕方がない。また、メンテナンス性に関する配慮も設備グレードに関係すると考えてよいであろう。ユニットが多い個別方式はこの面ではグレードが引くいといえる。
- 耐久性の大きな材料の採用:建築と違って見える物は少ない。耐久性の高いものが高グレードといえよう。セントラル方式の場合の共用主配管は、ステンレス配管とするなどの配慮も考えられる。
空調・換気設備の目的は要求される機能の整備ということであるので、システムが決定された際にある程度のグレードも決まってしまうといえる。その範囲内でグレードアップを心がけるのが設計者・施工者の腕の見せ所といえよう。