空調設備のマサカ⑰
冷暖房設備が贅沢品の時代は、冷暖房の有無が建物のステータスシンボルであり、飲食店や喫茶店には「冷暖房完備」の看板があった。筆者の最初の現場は昭和40年に竣工した約1万坪の複合ビルであったが、最上階の飲食店舗階のテナントは、既設店舗の「冷暖房完備」の看板を新築ビル内店舗の入り口に掲げたほどである。
「冷暖房完備」の時代の空調システムは、いわゆる「セントラルシステム」が多く、ゾーニングには配慮されていないものが多く見られた。
今回は、空調設備計画に当たって、必須の配慮事項であるゾーニング計画についてお話しする。
◆純粋セントラルシステム
定年後某設備設計事務所のお手伝いで、役所施設の設備診断業務を行ったことがある。この際同行したゼネコンOBの設備技術者(筆者より年少)がびっくりした空調システムがあった。2~3000㎡程度の行政の施設であるが、熱源は当初のボイラと冷凍機(又は水冷チラー)が、リニューアルされてガス冷温水機1台。空調機が全館用1台で、給気ダクトは各階中央のコアスペースを立ち上がって各階で横引き展開し、下がり天井から横吹きされ、レタンは各階1箇所のガラリで吸い込まれ空調機に戻るというシステムであった。もちろんファンコイルユニットなどは設置されていない。
「山本さんこんなシステムがあるんですか?」「空調設備の参考書にあるだろ。これが標準的な中央方式さ」と答えたものの、筆者にとっても初めてお目にかかる代物であった。但し、感心なことにガス温水器にリニューアルした際に保有水量の確保のために、配管系にクッションタンクが設置されていた。先に述べた筆者の最初のビルは、各階2台のエアハンで、それぞれ2及び3ゾーンの再熱制御を行っていた。それ以後の経験でも建物全館一系統の純粋なセントラル方式は設計したことがない。ということは、筆者がこの業界に入る1963年以前から、ゾーニングに配慮した設計は常識になっていたものといえる。筆者より若いゼネコンOB氏がびっくりしたのも当然であろう。
◆ゾーニング計画
室内を冷・暖房する場合は、負荷の状況、使用時間帯などによって空調区域を分けることが望ましい。空調の区域を使用条件によって分けることをゾーニングとよんでおり、空調設備計画に当たって非常に重要な要件である。
ゾーニングの要因は以下に述べるようにたくさんある。ゾーニング計画、空調系統の取り纏め、機器選定に当たってはゾーニング区分ができるだけ同じように重複することが望ましい。