186、187 システム比較の『マサカ』①、②

2019年10月16日

『マサカ』の話   185   システム比較の『マサカ』①    ~システム比較はさじ加減~

◆システム比較の『マサカ』

『マサカ』の話連載の「(省エネ)チューニングの『マサカ』の話」に対し投書があった。
その内容は「今後の冷暖房をどの方式にするか、判断の必要が生じているので、電気・ガス・重油など、使用燃料、蓄熱システムも含めてお願いします」と書かれているが、要は冷暖房システム比較の参考になるものが欲しいということであろう。

しかしシステム選定の根拠となる要因は多岐にわたっており、建物の用途や規模にも関係してくる。
もちろんそのシステムの機能面や使い勝手も検討の対象である。省エネ性だけで判断するわけにはいかない。現役時代からシステムや熱源の比較はたくさん行ってきたので、判断の基準について参考になるお話をする。

①システム比較はさじ加減
 注意しなければいけないのは、システム比較を行う者の技術レベルと、中立性・公平性である。新しい機械やシステムを売り込みに来たメーカーの方はメリットばかり強調するようなことがよくあるが、システム比較をする者も無意識のうちにどちらか一方に肩入れをしていることがあるので注意が必要である。トラブルやクレームを経験したシステムは使いたくないのは理解できるが、新しいシステムを使いたがる又はその逆のかたもおられる。したがって「システム比較はさじ加減」ともいえる。さじ加減の具合や、一方に肩入れしている事例などは、次回にあげる。

②システム比較のチェックポイント
 システム比較のためにはそれぞれのシステムの特徴をメリット・デメリットをあげて比較検討することが必要である。これについてチェックポイントをあげる。

・比較対象機器・システム選定が適切であること。
 建物の規模・用途に適合する設備機器・システムの比較であるから、不適切なものと比較してメリットをあげても意味ない。

・比較対象項目の選定と評価が適切であること。
 比較対象項目には、コスト比較(設備費、運転費、メンテナンス費)、機能比較(能力、効率、操作性、制御性、取扱いの難易、トラブル関連)、スペース比較(面積、階高・天井高)、省エネ性等々が挙げられる。
  比較対象機器・システムごとに、これらの項目について適切な評価を行って総合評価に至るのであるが、どれかの重要な項目が外れていると総合評価を誤ることになる。
 また数値で表す項目については適正な数値であることは当然である。

・◎、〇、△、×の位置づけが適切であること。
 評価については、記述又は数字で示すことが望ましいが、項目によっては〇、×、△で評価せざるを得ない場合もある。この位置づけも適正であることが望ましい。

・点数方式の場合は、配点が適切であること。
 同様に各項目の評価を5,3,1や3,2,1で点数付けし、総合得点で評価するやり方もある。
 評価項目には、重要なものとそうでないものとがあるので、同じ5点でも評価の重みが違う。
 点数方式の場合は評価項目の基準点を違えておく必要がある。
 ただしこの場合でも基準点の付け方が難しい。筆者はこの方式でシステム比較は行ったことがない。

・エネルギー使用量は実勢とあっているか
 新しい機器やシステムの導入には、設備工事費が高くなるのが通例である。
 これを採用してもらうには、運転費の節約分が大きいことが望ましい。
 エネルギー使用量が大きいと節約分も大きくなる。実勢とあったエネルギー使用量が重要である。

・工事費の機器単価は実勢価格となっているか
 設備業における機器類の標準価格と実勢価格の間には大きな差がある。
 実勢価格で比較しないと評価が違ってくるので要注意である。

・関連工事に落ちがないか
 システム比較には、該当する設備だけを考えてはいけない。
 新しい機器・システム導入に当たっては、建築、やその他の設備に影響がないかどうかのチェックが必要である。
 大型ビルでガス冷温水機が使われている場合は、その理由が特高受電回避にあることが良くある。
 この場合は受変電設備と空調熱源設備の決定のためには、システム比較を行うほどのことはない。

③セントラル熱源方式と個別熱源方式の比較

 読者の方の投書にこたえる形で比較検討を行うが、セントラル熱源での空調方式は決めず、個別方式はいわゆるビルマルチ方式とする。
 機能面でいえば、運転操作、冷暖房切替え、室温設定の機能が使用者側に任されていることのメリットは大きい。
 小型ヒートポンプユニット方式がそれほど評価されていなかったころ、このシステムのプレゼンをした担当者は、大規模ビルから小規模な本社ビルに移ることになっていたテナントから大いに喜ばれた。「管理事務所に届け出しなくても私どもで勝手に入り切りしてもいいんですか」とこの機能は大変好評であったそうである。
 デベロッパーにとっても冷暖房費はテナントごとに計量できるし、熱源機械室スペースは賃貸面積に振り替えられるのでメリットは大きい。ドラフトの問題は天井釣りダクト接続型を使えばよい。外気供給・処理は、両方式共通の課題である。テナントに勝手に使われるために、メーカー努力の省エネ性が若干落ちるのは贅沢設備の機能上止むを得ないが、室内機側の省エネシステムについては、各社がいろいろな方式を提案しているのである程度対応できる。省エネ性で気を付けなければならないのは、筆者が度々指摘している室外機のショートサーキット運転だけである。


『マサカ』の話 187 システム比較の『マサカ』 ~システム比較はさじ加減~

先月は、システム比較の留意事項について述べたが、今月は、~システム比較はさじ加減~というシステム比較の『マサカ』事例を紹介する。筆者の事例ではなく、事業者からチェックを求められた事例や、技術雑誌に掲載された事例である。

 設計者として、どちらが適切なのか判断に困ることや、評価の判断について事業者側と差があったことはよくあったが、「さじ加減」をした事例は殆んどない。故意か不注意かは別として、特定の評価項目が入っていなかったり、数値が適正でない場合は最終評価が異なってしまう。システム評価報告を受ける側も、幅広い判断力が必要である。

◆システム比較の『マサカ』事例

①ターボ冷凍機×ガス冷温水機
:冷却水の使用量が検討対象項目になかった
 セントラル方式の場合の熱源システムはどれが良いのかということ、はよくある比較事例であった。冷熱源に関しては熱源を電気とするかガスとするかによりイニシアルコスト・ランニングコストに差ができるのでどちらが有利かの比較検討である。

 この際に、電力料金とガス料金の比較は当然行うが、水道料金の比較が入っていない事例があった。ご承知のように、吸収式冷水器の場合は、ターボ式やレシプロ式のものと比べ、冷却水量が3割程度多い。大型ビルや商業ビルの場合は冷房機関が長いこともあり、水道料金の違いは大きいのでこれの有無はシステム評価への影響大である。

②夜間電力利用氷蓄熱方式×一般熱源方式
:熱源機器単価を定価で比較/夜間運転の騒音評価なし
 単価の安い夜間電力を利用して、氷蓄熱を行う場合のシステム比較では、機器の単価が大きく影響する。
熱源機器の単価は半値八掛けの世界であるから定価はあってなきが如しである。
定価ベースでは機器単価の差はそれほど多くないが、(氷蓄熱の方が高い)実勢価格ベースではその差が大きくなってしまう。
折角エネルギー単価の安いシステムを使ってもメリットが現れない場合もあった。
また、この事例の場合は住居地域に近い環境であったが、夜間の冷却塔運転音に対する評価もなかった事例もあった。
 なお、冷凍機夜間運転の場合は、冷却水温度が低くなって成績効率は良くなるので夜間蓄熱方式にとっては有利になるが、事例によっては、これに気づかないで比較している事例もあった。

③排煙システム比較(自然排煙×機械排煙)
:小間仕切り変更対応検討無し/機械排煙竪ダクト面積無評価
 排煙システムを自然排煙にするか、機械排煙にするかは建築計画に大きな影響を与える。
排煙機・排煙ダクト・非常電源が必要な機械排煙と、外壁側に設置された排煙口との比較であるのでコスト比較のみで評価されることがある。
しかし自然排煙方式ではプランニングに伴う小間仕切り変更への対応性のフレキシビリティーについて評価すべき項目である。
また、小規模ビルの場合は機械排煙ダクト面積による賃貸面積有効率の低下も配慮すべきである。

④ウォールスルー方式×ファンコイルユニット方式
:サッシ改造工事金額が小さかった
 ウォールスルーユニット方式の場合は外壁サッシの形状によっては大幅な工事費増となる。
 建築の積算担当者訊いたら、「こんなに安くできるわけないじゃないか」といわれた事例もあった。

⑤ソーラー冷暖房システム×一般システム
:老人施設で冷暖房負荷を実際より大きく仮定して比較検討。 
 40年近く前、太陽熱利用システムがもてはやされたころのお話。工事費とガス料金によっては、給湯設備には採用可能かという状況で、ソーラー冷暖房設備にも使えるという記事が某誌に掲載された。
よく読むと老人施設に冷暖房設備を設置し、365日、24時間冷暖房するということでコスト比較を行っていた。
細かいことは忘れたが、小規模建物であって、お年寄であっても中間期の冷暖房は必要ないと思われた。
エネルギー消費量を大きく想定すれば、節約効果は大きくなる。
省エネルギーシステムの比較検討に当たっては、建物実態に合ったエネルギー消費量をもとに比較検討すべきは勿論である。

⑥分譲マンションでの太陽熱給湯システム
 上記と同じころ、ガス料金が毎年のように上昇していたので、ソーラー給湯システムについては、設備費の安い簡便なシステムにすれば十分にメリットがあった。某デベロッパーで、このシステムを組み込んだ分譲マンションが計画・検討されたことがある。しかしメリットを受けるのはマンション購入者、工事費を出すデベロッパーのメリットは販売促進の補助ということで、設置は取りやめとなった。昨今の太陽光発電システムのマンションへの採用は、デベロッパーの省エネへの取り組み姿勢を示すものであり、分譲価格が上がっても商品価値があると見られているいるものと思われる。

◆使い方に関係するシステム比較他
・コンピュータとカンピュータ
 2003年9月号の35話では上記タイトルで、省エネシステム比較のお話をした。筆者の会社で設計した建物で、複数台設置された熱源機の台数制御システムの省エネ性についての比較であった。
比較の対象は台数制御システムの有効性であったが、これの算出には担当者が頭を抱えた。
手動運転の場合でも、負荷に応じて熱源機器の運転台数は変えている。
相談を受けた筆者も困った。シミュレーションするにしてもこの頃はデータはないし、想定も難しい。
ベテランでなくても運転操作できるという別のメリットも追加説明して、了解を得た。

 省エネルギーセンターでチューニング調査を行った際に、このシステムを使わなくなった建物が数件あった。台数制御システムが故障し、手動運転(カンピューター)に切り替えたとの事。
今にして思えばもう少し突っ込んだヒアリングを行って、台数制御システム使用期間と手動運転期間とのエネルギー消費量を把握できたら良かった。
新しい省エネシステムの採用時は当然であるが、何かの都合で使わなくなった場合でも、是非エネルギー消費量の比較をしていただきたい。
使い方によってエネルギー消費量が変わる場合は、実際のデータで効果を調べるしかないのである。

・ホテル客室のサーモスタットはどの程度省エネになるか?
 これも上記と同じ建物で、ホテル客室にサーモスタットを取付けた事例。
 この省エネ量計算も難しい。利用時間はまちまちでもあるし、通常睡眠時にはファンコイルユニットの運転は止めていることも多い。
この場合も、使用条件によって省エネ性に違いが出る。

◆当社比○○%の省エネ
 設備雑誌や設備の業界紙に新しいビルの紹介があると、当社比〇〇%の省エネを実現したなどの記事が出ることがある。
 建築設備の省エネルギーシステムは昭和50年台の半ばごろから空調・衛生工学界を中心に提案・研究がなされており、多くのシステムが紹介されている。
 建物の形状・種類や予算によって採用可能なものは限定されるが、設備技術者は、設備計画・設計に際しては、可能な限り設計に組み込むように努力している。
新しいビルでの省エネ比較「当社比〇〇%」の数字はおおむね大きい。
ということは10年以上前の設備内容と比較していることになる。
直近の建物との比較ではそれほど大きくはならない。
省エネ効果を公平にPRする事ははなかなか難しい。

((有)環境設備コンサルタント 代表(ヤマモト ヒロシ)


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