建築設備トラブル概論 5.建築生産における情報断絶④

2023年06月25日

5.5複雑な形の設計業務担当パターン

 施工業務の場合は、基準となる設計図書が完備して入れば、基本的には一括施工・分離施工の差はないはずである。しかし設計業務に関しては上述のようにいろいろなパターンがあるので、設計業務内部での情報断絶が発生する。パターン分析に当たり、設計業務は、計画・設計(取合い)・設計(計算・作図等貼り付け等)に分けた。

又、下表は貼り付けできなかったので貼り付けできなかったので縦・横線を想定してください。

①総合事務所・ゼネコン設計部設計の場合

工事区分   計画  設計(取合い)    設計(計算・作図等)

建 築   建築設計総合事務所       (建築協力事務所)

構 造   (意匠設計者及び技術スタッフ) (構造事務所)

空 調                   (設備設計事務所)

衛 生                   (設備設計事務所)

電 気                   (電気設備設計事務所)

 意匠設計者及び技術スタッフは同じ会社の人間であるから、相互のコミュニケーションは良いので情報断絶は少ない。しかし、社内における、意匠設計者と技術スタッフとの間の権威勾配はないわけではないので、設備技術者側に遠慮があると、建築計画に起因するトラブル情報は伝わりにくい。大手ゼネコンでは品質管理部門が充実しており、トラブルの再発防止を心掛けているが、総合設計事務所の場合はどうであろうか?トラブル対応は施工業者の仕事であるなどと認識していると、トラブル情報は上がってこないので、『マタカ』トラブルの再発防止は難しくなる。

②アトリエ事務所による一括設計の場合

工事区分    計画  設計(取合い)    設計(計算作図等)

建 築     建築設計事務所         (建築協力事務所)

構 造    (専業事務所)        (構造事務所)

空 調    (専業事務所)         (設備設計事務所)

衛 生    (専業事務所)         (設備設計事務所)

電 気    (専業事務所)         (電気設備設計事務所)


 建築設計には計画段階と設計段階がある。事業者側の意思決定に至るまでは計画図は何度も変更される。安い設計料の中で、計画段階から協力事務所に参画させることは難しい。と言って、総合事務所やゼネコン設計部のように技術スタッフがそばにいないので、細かいことについてすぐに解決できない。計画・設計業務の進捗に伴う情報伝達はおろそかになりやすい。計画がある程度固まってから技術スタッフが参画すると手戻りが生じるだけでなく、設計変更が難しくなって建築計画に起因する『マタカ』の設備トラブルの再発防止は難しいことになる。

また、この形態の場合は、意匠設計者と技術スタッフとの間の権威勾配が大きくなるので、技術スタッフの意見が通りにくくなる傾向がある。また、一般的には請負関係が生じているので、トラブル情報の断絶が生じ、意匠設計者の無理は通りやすくなるのである。

トラブル発生時の窓口は当然建築事務所であるが、設備トラブルと云う事で担当者によっては当事者意識は薄い傾向がある。施工業者側で対応する場合は、情報は設備事務所には伝わらないことが多く、また建築事務所は所員の出入りも多く、トラブル情報の蓄積とはならない傾向があると思われる。

③建築・設備の分離設計の場合

工事区分    計画  設計(取合い)    設計(計算作図等)

建 築     建築設計事務所        (建築協力事務所)

構 造     構造事務所           同左

空 調     空調設備設計事務所       同左

衛 生     衛生設備設計事務所       同左

電 気     電気設備設計事務所       同左

 各専業事務所は、設計業務については事業主から直接受注しており、立場的には意匠設計事務所と対等ではあるが、権威勾配は依然として存在している。また、基本計画段階でどこまで参画できるかも問題である。そのほかの問題点はパターン②と同じである。

 ②③パターンの場合は、意匠設計事務所は技術スタッフを抱えていないので比較的小規模である。

 伝統ある事務所ではそうでもないが、事務所によっては、所員の社会的訓練ができていないところがある。中途採用で筆者の会社に入社してくる建築設計者の中には、打合せ議事録を作らない、設計変更事項の連絡がないなど、「報・連・相」への基本的な認識に欠けているものも見られた。このような状況ではトラブル防止ができないのも当然である。

5.6設備専業設計事務所のトラブル情報断絶

施工会社から設計会社にトラブル情報が上がる場合は2つのケースがある。設備設計が分離発注された場合は、設計責任は設備設計事務所にあるので、設備トラブル情報はそこに上がる。

しかし、設備設計を建築設計事務所が請けている場合は、トラブル情報を受けるのは設備技術者の有無にかかわらず元請の設計事務所である。したがって、総合事務所の場合はそこの設備技術者が対応するので、下請けの設備設計事務所には担当した設計に関するトラブル情報が入ってこないことになる。設備技術者のいないアトリエ事務所でも、アフターに関して外注費は出せないので、設備トラブルのたびに設備設計事務所に対応を任せてばかりはいられない。大きなトラブルでない限りは、建築設計者が対応の窓口となる。

いずれにしても下請け設備事務所はつんぼ桟敷におかれ、トラブル情報は断絶する傾向になりやすい。設備設計事務所の技術力向上のためには望ましいこととは言えない。

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