101 警報措置の効能書き

2019年10月31日

101 警報装置の効能書き

今月は、建築基準法を離れて身近な人身事故トラブルとその安全対策について述べたい。

一昨年の6月に渋谷で起ったガス爆発事故については、当初の報道では警報装置の不備が指摘されていたが、最近では通気管からの水抜き操作の管理者への伝達漏れも問題とされている。

 今回の事件は「可燃性ガスの発生・漏洩の恐れのある温泉供給設備」が設置された地下機械室の安全対策という、一種の応用問題である。

可燃性ガスの安全対策としては、各種安全装置の設置と管理が必要であり、通気管に設けた水抜きパイプの設置及び操作はその一部である。したがって水抜き以外にも、他の不具合があればガス爆発のおそれがないわけではない。

ここでは責任問題は別としてガス検知器による警報装置の重要性について考えてみたい。

◆警報装置は何のためにつけるか?建築設備に関して言えばシステム・装置・機器類の保全管理と機能障害の予防がその大きな目的といえよう。管理運営の省力化や、省エネルギーの目標管理を目的とすることもある。

◆警報装置をつけるかつけないか、この判断は設備等の不具合により、どの程度のトラブルが発生するかによる。勿論コストとの兼ね合いである。中央監視盤に各種警報ランプがついているが、生命・安全に関連するものは少ない。

◆火災については、建物施設所有者・利用者の生命・安全・財産に直接影響があるので、警報装置・消火設備類の設置と定期点検が法的に義務付けられている。

◆可燃性ガスの場合には爆発の危険性があることは、一般人でも常識である。ただし一般ビルでは燃焼ガスの使用個所は限られており、供給は密閉配管、ガスの使用はガス給湯機・ボイラ類を除き、人為的に管理されている。ガス漏れ感知器が危険性の程度により設置され、マンションのメーターボックスの扉には上下に開口部が設けられている。

それに対し、今回の「温泉供給設備」は地下の室内に設置されており、温泉槽オーバーフロー管等室内に開放されている配管があり、燃焼ガスの室内への流出・漏洩は、人為的に管理できないので、システムの運転状況により成り行きとなる。このような場合は危険性が高いといえよう。

◆各種のミスをカバーする警報装置の効用

対象となる設備は、「温泉装置(気水分離槽、温泉槽)の設置された地下室の換気設備」である。ガス検知器による警報装置が設置されていたならば、設計・施工から管理、機器の故障に至るまでの各段階でのミス・不備・問題点をどの程度カバーできるものであるか検討してみる。設備内容については新聞等の報道による。

□設計上の不備

  • 機械室内換気設備:今回のような事例においては、目安となる設計基準はない。通常の機械室の換気回数で排気ファンの容量を決めておけばほぼ間違いはあるまいが、大量のガス漏れの可能性については不安がないわけではない。また、温泉設備側で何か警報装置は付いているであろうが、温泉装置の故障時(特に温泉槽のオーバーフロー)不具合時の対応については、どの程度の換気設備があればいいのかは分らない。通常運転時のガス漏れについて、排気風量が不適切であるとか、給気口面積不足(この場合は通気管の機能障害となりうる)も考えられる。
  • 通気管・水抜き管:温泉使用量から分離されるガス量を想定し、通気管で外気に放出される際にどの程度の水蒸気が誘引され、結露量がどの程度になるか?算定条件としては、温泉使用量・ガス含有量・分離ガス温度・外気温度・地中温度・通気管径と長さなどが関係してくるであろう。

また、結露水量および水抜き管径と長さにより水抜きのインターバルも想定できる。こんな煩雑な設計をわずかな「通気管ルート変更設計料」(おそらく貰っていないであろう)ではやっていられない。通気管径・水抜き管径ともKKD(注)でエイヤッと決めたのではないだろうか。だとすれば、後述するように、水抜きの指示があってもそのインターバルが適切であるかどうかは不明である。

設計時点での水抜き管の設置忘れもありうる。

  • 防爆対策不備:今回は可燃性ガスの存在の恐れのあるところの電気設備が防爆仕様になっていなかったのも問題である。

□施工上の不備

  • 通気管、水抜き管の施工:配管の勾配が不適切であった場合は、結露水がたまりやすく又水抜きが完全に出来ない場合もある。
  • 設計変更:設計者が把握していない設計変更は、忙しい現場ではよくあることである。

□管理者側の問題

  • 水抜きのインターバル:通気管のU字部分に水抜き装置をつけたとしても、どの程度のインターバルで水抜きを行うのが適切なのかは不明である。どの程度の水が溜まるのか計算できないことはないであろうが、温泉使用水量・季節による結露の違い等使ってみなければ分らない要素がある。水抜きを行うような指示は必要であるが、それが万能というわけではない。
  • 操作忘れ:めったにないことであろうが・・・。
  • 管理者の定期異動に伴う内部の連絡漏れ:マニュアル化して書類等で引き継いでも、重要事項であることの認識も引き継がないと完全ではない。

□機器類の故障等:以下の機器類の故障・不具合

  • 換気扇の故障
  • ダンパー類の作動
  • 水抜きパイプのつまり
  • 温泉関連配管からの温泉水漏れ

□その他の想定される問題点

  • 伝達漏れ:一般の商取引で言えば、通気管ドレンの水抜き作業の伝達は重要事項説明に当ろう。ということで設備技術者の責任が問われたものと思われる。
  • 管理契約漏れ:温泉装置や換気設備の管理が管理契約に含まれていなければ、水抜き作業も同様であり、伝達されても対応しないおそれもある。
  • 温泉装置の故障:装置の故障時にガス濃度にどのような影響があるのか不明であるが、何らかの影響はあるであろう。

□警報装置の効用:上記のいずれの場合も、警報装置が設計・施工・管理各段階の問題点を指摘してくれる他、発報頻度によっては設計条件と使用条件の違いが分る。又水抜きインターバルが適正かどうかまで判断できる。警報装置があれば手抜きをして良いと言うわけではないが、エンジニアとしては、違った分野の設計の場合は、警報装置が付いていれば安心である。

今回の事故のように、室内に可燃性ガスが漏れ、人命にかかわる可能性が大きい場合は、二重三重の予防対策が必要であるが、警報装置の設置は必須の条件ではないだろうか。

(注)KKD:建設業界等で難しい決定をしなければならない際に使われるテクニック又は裏技。
       勘と経験と度胸のアルファベットの頭文字を取ったもの。
       ベテランが使う場合は間違いは少ないが、若手には使えない。

((有)環境設備コンサルタント 代表 

〔ヤマモト ヒロシ〕)

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