135「マサカ」の話の誕生秘話

2019年10月24日

マサカ」の話は筆者の現役時代の社内報に載せた事例から始まっているが、そのきっかけになった話は、この連載ではまだ述べていない。

 バブルの時期には、小生の在籍していた事務所も多少のゆとりが出来たので、社内報を発行しようという事になった。
ここには、今までの諸先輩方の失敗談を載せて、設計活動の参考にしようというコーナーもできた。
設備設計の立場からはトラブルやクレームにはたくさん遭遇している。
といって水が漏っただの、冷暖房の暑い寒いなどのトラブルは数が多いが、(施工ミスもあって)建築設計の参考にはあまりならないし、事故報告書的な書き方になりやすく面白くもない。
いろいろ考えているうちに手ごろな事例に出会った。
建築設備のトラブルではないが、設計事務所の社内報に載せるには手ごろな事例である。
ということでこれにあわせて、似たような事例も紹介することにした。

さてテーマは決まったが、タイトルが難しい。
建築設計の部長に、第1回目のテーマとその後の予定のトラブル話を上げて、タイトルについて相談したら、「山ちゃん、いろいろ考えて設計したけど、予想外のトラブルになったんだろ。
それなら思いがけないということで「『マサカ』の話」としたらいいんじゃないか」とのアドヴァイスでタイトルが決まった。

最近では設備トラブルや「マサカ」の話について講演する際は、「『マサカ』の話」誕生話の紹介から話を始めることが多い。設備トラブルではないが、『マサカ』の話の誕生事例を紹介する。

◆駅ビルモニュメントのトラブル

大事件ではないが、20年以上前に大手新聞の地方版に載ったほどのトラブルなので神奈川県の方は覚えておられるかもしれない。

 写真は某私鉄駅ビルのアトリウムである。鉄道路線の拡張に伴い、駅の上に横長の商業ビルが建設された。写真に向かってアトリウムの左側には駅の改札口があり、右側には百貨店の入口がある。両側とも写真の枠外に建物が長く伸びており、全長200m以上の細長い建物である。(想像してください)

また、道路の手前には学校のキャンパスがあり、奥の開口は地元商店街につながっている。開口部はあるが、手前側のほうが大きい。また、屋根の一部はガラス張りであった。

このアトリウムに、直径2200㎜のステンレス球鏡面仕上のモニュメントが設置された。
モニュメント側面中央部に直径 500㎜深さ 150㎜程度の凹部があり手前を向いている。
凹部の真中に孔が開いていて覗くと反対側が見える。
写真は手前側から見た物で、実はこのモニュメントが悪さをしたのである。 
これだけのヒントで何が起きるか想像できたら表彰物である。
現場の打合せで話題に上ったが、屋根があるからと、見送られたとの事であった。子供が上って落ちたとか孔に何か差し込んだとか言う話ではない。(上られない様にH=2200となっている。)
危うく事故が起こるところだったのである。

筆者も何かの打合せでこのビルに行った際、モニュメントが黒いビニ-ルシ-トに覆われているのに気付き担当者に尋ねて分かった次第。これをもう一つのヒントとする。

・凹面鏡には焦点がある

『マサカ』の原因には風・雨・水・音・熱・光・雪・氷・匂い等の自然現象が多いが、まだ紹介していないのが光のトラブルである。

上記の原因は太陽光線であった。
ギリシャの乙女が凹面鏡でオリンピックの聖火をつけるのと同じ原理により、東面学校側の開口部から差し込んだ光が反射し、待合わせ中の学生の服に焦点が当たって焦がしてしまったのである。
話を聞いた設計担当者が革カバンで試してみたところ数秒で煙が出始めたというから凄い。

現在では凹面部をサンドブラストしてトラブル防止を計っている。
「アトリウムの上のガラス屋根面の光の反射についてはどっちの方向に行くか、問題がないか色々検討したんですがね。『マサカ』あれがね-。」というのが設計担当者の感想。
モニュメントが屋根のあるアトリウムの中に置いてあったのが『マサカ』の一因、その設計は当社業務外であったのがもう一因であるが、オ-プンが11月で東側開口部からの日射が低く春先になる迄モニュメントに届かなかった事も関係者が気が付かなかった原因である。

 余談であるがこのモニュメントの頂部にも孔が開けられておりアトリウム上部のガラス面からの日差しが夏至の日の12時に床迄真っ直ぐに差し込む様になっている。
これの制作と据え付けの指導にも当社の監理者が与かっており結構大変な仕事であったとの事。
竣工後夏至の日に確認したところ大きな影の中に丸く光がありホッとしたとはご同慶の至りである。
夏至の前後1週間は見られるという事である。

◆屋上ソ-ラ-ハウスのガラス屋根の反射光がホテル客室に差込んだ。

状況:寒冷地に立つホテルと百貨店の複合ビルにおいて、客寄せのため温室状のソ-ラ-ハウスを百貨店屋上(7F)に設けた。これの斜めのガラス屋根への日射が傍に建つホテル客室(7~12F)窓面に反射、眩しくかつカ-テンが早く傷むとクレ-ムが付いた。一枚のガラス面積が若干大きく撓みにより凹部が出来てしまって反射光が大きくなったのもトラブルの原因であった。 

対応:ホテル客室窓に反射フィルムを貼って入射光を和らげた。

◆7F飲食店外側の斜めのガラス屋根の反射光が数十m先のビル2Fレストラン窓に差し込んだ。

状況:あらかじめ予想された事でもあり、反射率の最も低いガラスを選定し取付けてあったので特にはトラブルにはならなかった。現場関係者が昼食等に利用していたのも良かったとの事である。

対応:それでも眩しいので、施工者側でレストランにカ-テンを取り付ける等の処置を行った。


(2019.10.26追加)
最近は太陽光パネルの反射光がトラブルのタネになることが多い。
太陽の位置は、365日と時間により変わるので、注意が必要である。

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